作者名:真藤 順丈 角川文庫
双子の兄弟のなきがらが埋まったこぶを頭に持つ彼を、人々は“墓頭”と呼んだ。数奇な運命に導かれて異能の子どもが集まる施設に入ったボズは、改革運動の吹き荒れる中国、混迷を極める香港九龍城、インド洋孤島の無差別殺人事件に現われ、戦後アジアの暗黒史で語られる存在になっていく。自分に関わった者はかならず命を落とす、そんな宿命を背負った男の有為転変の冒険譚。唯一無二のピカレスクロマンがいま開幕する―。
「頭部に死体を持つ男」の人生を描くという、何とも奇怪な冒険譚!
異能を持つ子どもたちの運命に瞠目する、壮大な傑作です!
とにかく設定がすごい度:★★★★★
特殊な生まれの人間の、激動の人生を描く小説、というのは結構ありますが、
「生まれながらに墓である男」というのは、今までにない設定かと思います。
母胎内で双子の片割れが育たず、1人だけが生まれてくる、
いわゆるバニシング・ツインズ…主人公はこの現象の超特殊例。
ときたま、双子の亡骸を収めたこぶや袋をもって、
生まれる片割れがいるのだそうですが、
なんと主人公の場合、これが頭部にあり摘出不可能だったため、
生まれたとたん周囲が大混乱に!
田舎の名家の嫡男なのに、名前を与えられず、
しばらく土蔵で育つ不幸を背負うのでした。
この特徴から、いつしか墓頭(ボズ)と呼ばれるようになり、激動の人生を歩みます。
そりゃあ、激動の人生にもなるだろうという、とんでもない設定の主人公!
登場人物も物語も個性が強い真藤作品の中でも、インパクトが際立つ…。
さらに作品も、戦後アジアの暗黒史の時代を中心に、
異能を持つ子どもたちの、おのおのの生存をかけた、
恐ろしい戦いについて描いていて、
奇抜な設定に負けない、壮大なミステリかつ歴史小説になっています。
「生まれながらに墓である」ボズは、生と死の境界の存在として、
関わる者たちに死をもたらしてしまい、
「頭のなかの死体をどうやって出すか」という命題を解くのに、人生を賭ける。
…この他で見られない設定に惹かれて購入したのですが、
かなりはまり込んで止まらなくなりました。
人間の残酷さと美しさを容赦なくたたきつける作品で、何かもう…熱い!
刺激的な読書体験がしたい人に、おすすめです。
他の登場人物も負けていない度:★★★★
ボズのインパクトが凄まじいですが、他の登場人物も負けていません。
ボズを異能の子が集まる特殊な施設「白鳥塾」に招く、謎のパイプを持つ指導者・ホウヤ。
塾で出会った、画才を持ち人を惑わす兄・シロウと、成長をやめた弟・ユウジン。
異食症の天才児で、人心を乱す嫌われ者・ヒョウゴ。
見えてはいけないものが見えるお嬢様・アンジュ…などなど。
ひとりひとりが、独立して主人公やれそうなほど、
強烈個性の登場人物がわんさか出てきます。濃い!
毛沢東やポル・ポトなども出てきて、
混乱と暴虐の時代であったことを、余さず書き、
強烈個性の登場人物が、それぞれ自分の道を進んでいくのに、よく物語がまとまったなぁ…
なんてところで感心してしまいました。
過酷な運命に涙する!度:★★★★
現代に生きる青年が、ある出来事がきっかけで、謎の人物ボズについて調べ、
徐々に彼の人生の、真の姿が明らかになる、という流れで進みます。
次第に明らかになっていく、ボズと白鳥塾の生徒たちの、過酷な運命…。
その恐ろしさと、謎の多さに、読むのが止まらず。
まるっきり善良であるとは言えない、呪われた男の人生の物語ですが、
慄くだけではなく、読後は大きな感動が!
意外にも、ボズにけっこう感情移入しちゃうかも。
わりと魅力的な主人公です。
生き残った異能の子どもたちの運命が収束する、クライマックスは圧巻!
そして私は、この小説でハマって、真藤作品を買い求めるようになったのでした…。
圧倒的インパクトと、緻密で壮大なストーリー!
ミステリ・ピカレスク・歴史小説におさまりきらない、強烈な作品です。