作者名:真藤 順丈(じゅんじょう) ポプラ文庫
道州制による分権のもと、監視カメラのネットワークによって国民に絶えず順位を付ける制度(RANK)が施行される近未来の日本・関東州。(RANK)低位者の拘束を業とする公務員「執行官」の中には、任務に疑問を抱く春日と、歪んだ正義感のもと暴走していく佐伯がいた。抑圧された人々の蠢きによって、自らに危機が迫っていることも知らず…第三回ポプラ社小説大賞特別賞受賞作。
こんな未来は嫌だ…。最悪の監視社会となった日本!
強硬手段に出る「最下位の人」。その正体・計画とは?
ダークな真藤作品度:★★★★★
真藤さんは、「庵堂三兄弟の聖職」でホラー大賞をとっていますし、
暗黒のアジア史でのピカレスク小説「墓頭」や、沖縄の基地問題を描いた小説「宝島」も書かれています。
でも、どの作品も人間に対する優しさがあり、
心理描写も丁寧で直木賞などもとってますし、
途中辛いシーンがあっても、ラストは感動もしくは爽やかな余韻を残します。
で、この作品ですが…
今まで読んだ真藤作品の中では、一番ダークかも。
日本に道州制が導入され、稼ぎたい人は関東州に来るのですが、
国によって、町中に「眼」となるカメラが設置されており、監視・支配される近未来が舞台です。
細かい言動まで評価・点数化され、みんながランク付けされており、
あまりにも点数が悪いと、恐怖の「圏外落ち」となり、「執行官」がやってくるのです。
こうなったらもうおしまいで、執行官の特別な目薬によって人生を終えるしかありません。こわっ。
ここで抵抗すると、執行官によっては、ひどい殺され方をすることに…。
この状況に、人々の不満は募るばかり。
そして、執行官の失踪事件や、謎の「最下位の人」騒ぎが起きてきて…。
管理したがる体制側、いい加減にうんざりしている住民たち、行動を起こそうとする不穏分子。
彼らの関係が変化し、何とも残酷で恐ろしい事態が、ついに起きてしまう!という物語です。
穏健な執行官・春日と、危険な執行官・佐伯がメインの登場人物。
佐伯と篠田の人でなし執行官コンビもたいがいですが、一般人が怖い!後半の暴走には戦慄するばかり…。
途中に何回か、監視対象者の行動とランク落ちの発表みたいなのが挿入されますが、
容赦がないというか情がないというか、とにかく機械的。
こういう部分でも、薄ら寒さを感じさせる、甘さ優しさ極力控えめな話です。
でも、グッとくるシーンもあり、結局夢中になって読んじゃいました!
主人公の対比度:★★★
基本的に善良で、執行官の任務が辛くてたまらない春日と、
逸脱した暴力行為を圏外落ちした人間に行い、そのまま処刑してしまう佐伯。
普通の人間らしい春日が主人公で、だいぶいっちゃっている佐伯が悪役だと思っていましたが、
読んでいるうちに2人とも主人公だな、と感じるように。
佐伯も部下の篠田も人でなしで、最初は最悪だな…と思っていたのですが、
だんだん、そうでもなくなってくるのが不思議。
ひどいことする人が、つぎつぎ出てくるし、後半はそれどころじゃなくなるからかな…?
はて、この作品でいちばん悪い人って、誰だったのか…というくらい混沌とした展開でした。
人間って怖い度:★★★★
監視社会に、住民たちは不満を募らせているのですが、
「最下位の人」の活動は、それを刺激してしまうもので…。
執行官に降りかかる災難も見ていられないし、
国家が隠す、監視社会の秘密もおぞましいし。
でも、それ以上に恐ろしいのは…。
クライマックスでは、どういう状況が最も怖いのか、よ~く分かります。
日本がこうなったら絶対に嫌だ!と思わせる、リアリティ溢れる監視社会の描写。
バイオレンスとパニックに満ちていて、ハラハラしつつ止まらない…。