作者名:真藤 順丈 角川ホラー文庫
死者の弔いのため、遺体を解体し様々な製品を創り出す「遺工」を家業とする庵堂家。父の七回忌を機に、当代の遺工師である長男・正太郎のもと久々に三兄弟が集まる。再会を喜ぶ正太郎だが、次男の久就は都会生活に倦み、三男の毅巳も自分の中の暴力的な衝動を持て余していた。さらに彼らに、かつてなく難しい「依頼」が舞い込んで―。ホラー小説の最前線がここに!第15回日本ホラー小説大賞受賞作。
奇妙な職業を通じて、家族の、遺族の愛を描く!
まさに異色のホラー作品は、読後に深い余韻を残します。
驚きの家業のインパクト!度:★★★★
何といってもインパクトがあるのは、三兄弟の家業である「遺工師」。
遺体をこっそり回収し、遺族の依頼によって、
さまざまな生活用品や装飾品に加工します。
骨を使ったお箸や櫛だったり、髪を使った筆や刷毛であったり…。
とんでもない仕事内容ですが、遺族心理を考えると…
う~ん、真っ向から完全否定もしにくい…。
まだ身近にいてほしい!という思いが何とも切実です。
この異常な家業に従事しているのは、三兄弟の長男と三男。
長男・正太郎は、大柄で優秀な職人。弟大好きブラコンさんです。
三男・毅巳は、粗暴で口が悪い、かつての問題児。
現在は少し落ち着いて、家業を手伝っていますが、女性関係で問題を起こしやすく、
かなり厄介な‟症状”を抱えています。
唯一家を出て会社員をしているのが、次男・久就。いちばん常識人。
しかし、都会のブラック企業勤務に疲れ切っており、
今回は父親の七回忌で久々の帰省です。
三兄弟が久しぶりに揃い、喜ぶ正太郎でしたが、さっそく三男が問題を起こすわ、
次男は兄弟に言いづらい悩みを抱えているわ、
とんでもなく難易度の高い、正太郎にとっても初めての依頼が入ってしまうわで、
大変なことに!
個性的な三兄弟の、絆と葛藤という、それだけだと普通の物語が、
人間の死体を加工するという仕事のせいで、読んだことのないものへと変化!
仕事をする‟工房”の描写は、うげっ!と言いたくなるようなもので、
兄弟の、ときにほのぼのとしたやりとりとの、ギャップがすごい。
常人には考えられない仕事ですが、鮮やかな職人技や超えられない壁といった描写があり、
この職業が実際に存在するもの、と錯覚させられそうに!
読んでいるうちに、遺工師の仕事と、家族と依頼人のドラマに、
引き込まれてしまいました。
ホラー×人間ドラマ×ミステリ度:★★★★★
前述のように、幽霊や物の怪が出たり、異常な殺人鬼に追われて、怖い怖い!
というホラー小説ではありません。
遺工師の作業はグロテスクで恐ろしいし、残酷で凄惨な描写も多々ありますが、
やはり‟異色のホラー”と言える物語です。
ホラー小説的な設定で、異常な環境での人間ドラマと、
歪だけれども悲しいくらい真摯な、最期の愛の形を描いた作品かと。
それゆえにか、個人的にとても印象に残りました。
好きな人は好きな作品ですし、真藤順丈が好きな人は、
ぜひぜひ手を出してほしいです。
唯一のホラー小説をどうぞ!度:★★★
ダ・ヴィンチ文学賞をとったデビュー作「地図男」、
直木賞&山田風太郎賞W受賞の青春・歴史小説「宝島」、
ポプラ社小説大賞特別賞をとったディストピアもの「RANK」、
アウトロー小説「墓頭」に、異色の警察小説「夜の淵をひと廻り」、
特殊な体をもつ青年とヤクザとの戦い「しるしなきもの」、
不思議な幻想冒険もの「黄昏旅団」などなど。
実に、さまざまなタイプの作品を書かれる、個性派の作家さんですが、
長編ホラー小説として書かれているのは、この作品だけのようです。
それで、ホラー大賞受賞しちゃうのが、本当にすごいわ…。
色々なジャンルが混ざった作品が多い中でも、ホラー文庫は珍しいので、ぜひ!
異常なのに、どこか魅力的な家族。
意外な読後感をもたらす、ちょっと変わったホラー小説大賞受賞作!