作者名:皆川 博子 講談社文庫
運命が運び、連れ戻すところに、われわれは従おう―。1789年、フランス革命によって階級制度は崩壊し、ピエール(貴族)、ローラン(商人)、コレット(平民)の運命は変転する。三人は、革命期の不条理によって負った「傷」への代償として、復讐を試みるが。小説の女王が描く壮大で企みに満ちた歴史ミステリー。
復讐を試みる、革命で傷ついた若者たち。
傷ついた繊細な心に住まう、クロコダイルが象徴するものとは?
フランスとイギリスを舞台に描かれる、壮大な歴史ミステリ!
ずっしりボリューム度:★★★★★
長いです。1000ページ超え。持つと重い(笑)
大作ぞろいの皆川作品の中でも、特に大作。
それでも、ぐいぐい読んでしまうのが、恐ろしいです!面白いんだもの!
貴族の嫡男・フランソワの従者で、物静かな青年・ピエール。
裕福な商人の跡取り息子だけれど、神経質で繊細なローラン。
家族のために、日雇いの仕事に励む少年・ジャン=マリ。
ジャン=マリの4つ年下の妹・コレット。
この4人をメインに、物語は進み、彼らの語りが交互に繰り返されます。
前半、早くも不穏な空気が垂れ込めており、まもなくフランス革命が勃発。
若者たちは、それぞれの苦境に立たされます。
革命は恐ろしいし、その後の混乱も恐ろしい!
相変わらず、緻密に歴史的事件の細部が描かれていて、皆川作品読むたびに思うけれど、
この時代に生まれなくてよかった~(汗)
それぐらい迫力の、革命前後の描写。怖い。
ずっとフランスではなく、この作品、後半部分はイギリスが舞台に。
前半のフランス革命の部分は、とにかく緊迫した状況で、
語り手たちも、生きるか死ぬかの瀬戸際状態がつづきます。
ハラハラハラハラ…気づいたら半分読んでた!って、なりました。
後半部分は、主要人物がイギリスに移動。地元の新たな登場人物が増えます。
その中には、本格ミステリ大賞受賞作「開かせていただき光栄です」に出ている、あの人たちが!
「開かせていただき光栄です」と、続編の「アルモニカ・ディアボリカ」を読んだ人は、
より楽しめるかと。
そして、イギリスでひとまず落ち着いた面々ですが、
フランス革命で負った心の傷は、そう簡単には癒えず、やがてある人物が復讐劇を…!
前半は歴史小説、後半はミステリという色合いが強いです。
妖しい雰囲気の、挿絵が作品にぴったりで素敵!
精神状態の描写度:★★★★
語り手のパートが特に多いのが、裕福な商人の息子・ローラン。
商会で見たクロコダイルに、強い興味と執着を覚えます。
もともと繊細で感受性が強いタイプらしく、
ワニが自分にとって、何か象徴的な物になった模様。
彼の不安定な心には、つねにワニがいます。
「クロコダイル路地」というのは、
何だか、彼の迷路でもがいている精神状態が表れているのかな?と思ってしまいました。
まぁ、こんな目にあったら、そりゃ不安定になるわな…という経験をしているので、
その点を考えると、結構踏ん張っているような気もします(汗)
‟復讐”に関しては、確かにそれも復讐だろうとは思いましたが、
もっと復讐すべき立場の人間も、いる気が…。
ここは、読んだ人で意見が分かれそう。
あらゆる物事・感情が錯綜して、一筋縄ではいかない作品なのです。
多彩な登場人物度:★★★★
大作かつ歴史ものゆえに、登場人物が結構多いです。
そして、魅力的な人物がたくさん!
フランス革命のパートには、
貴族の従者ピエール、商人ローラン、平民コレットと兄ジャン=マリ、
エルヴェ助祭、商会の人間、共和軍、王党軍、議員、市井の人々などなど。
イギリスのパートでは、
「開かせていただき光栄です」のメンバーやその家族、貧しい兄弟と友達なども登場。
個人的には、善良なジャン=マリと、イギリス人のなかなか賢い女の子メイが好きです。
そばにいると面倒だけれど(ひどい)、ローランも嫌いじゃないなぁ。
読んだ後に、誰が好きか誰が正しいと感じるか…
余韻に浸りながら考えるのも醍醐味かも。
歴史小説と、本格ミステリの融合は、さすがの皆川さんです。
‟すごいの読んだな~”と思わせる、重厚な傑作!