【ミステリ】双頭のバビロン(上・下)|世紀末ウィーンの貴族に生まれた双生児・ゲオルクとユリアン。一人は跡取りに、もう一人は存在を抹消され、それぞれがウィーン・ハリウッド・上海を舞台に数奇な運命を歩み始める。しかし、奇妙な双子の運命は再び交わりだし…。皆川博子が描く、壮大な運命譚!作家生活40周年記念作品。

作者名:皆川 博子   創元推理文庫

世紀末ウィーンに生まれた貴族の血を引く双生児、ゲオルクとユリアン。だが、前者は名家の跡取りとして陸軍学校へゆき、後者は存在を抹消され、ボヘミアの廃城で世間から隔絶され育てられる。やがて、ある事件からゲオルクは故郷を追われ、野心と欲望の都市ハリウッドで映画制作の道に足を踏み入れるが……動乱の1920年代、西洋と東洋の魔都で繰り広げられる、壮麗なる運命譚。

保護者ヴァルターとの静かな生活から一転、過酷な戦場へ兵士として赴くことになったユリアンとその親友ツヴェンゲル。著名な映画監督となりながらも、撮影現場での大火事の責任をとり、ハリウッドから離れざるを得なくなったゲオルク。交錯しては離れていく双子の運命は、鴉片と悪徳が蔓延する魔都・上海で驚くべき邂逅を果たす。数奇な双生児を巡る群像劇は、ここに終幕を迎える。

圧倒的な描写と、引き込まれる物語!

大作ですが、ぐいぐい読めてしまう、魔術的な魅力あり!

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圧巻の運命譚度:★★★★★

物語が始まるのは、1892年のオーストリア・ウィーン。

貴族を名乗ることを許された、ユダヤ人の名門グリースバッハ家。

この家に、体が脇腹でくっついた結合双生児の男児、

ゲオルクとユリアンが生まれます。

2人は手術で分離されますが、グリースバッハ家はゲオルクを跡取りとして迎え、

ユリアンは存在を抹消され、双子の面倒を見ていた医師ヴァルターが引き取ることに。

こうして、双子でありながら、2人は全く異なる人生を歩みます。

ゲオルクは気が強くやや傲慢、陸軍学校時代の決闘が原因で放逐され、

アメリカに渡り、やがてハリウッドにたどり着き、

映画監督としての才能を見せることに。

対してユリアンは、閉ざされた環境で、友人ツヴェンゲルとともに教育を受け、

隠された存在ながら、比較的穏やかな幼少期を過ごすことになります。

大戦が勃発し、おのおのが別の大陸にいて、お互いの生死さえ知らない。

そんな状況であるのに、奇妙な双子の運命は、複雑に交わりだして…。

当時の各国の状況、戦前の壮麗なウィーン、

華々しいハリウッドの裏側、上海のすさまじさに加え、

監督としてのゲオルクの苦悩、

ユリアンとツヴェンゲルの深い絆などが、入れ替わり描かれ、

読み進めるほど物語に引き込まれます。

映画の脚本として、色々な物語が綴られるのも楽しい!

運命の収束から目が離せない度:★★★★

ゲオルクとユリアンは、全く違う立場・環境で育ちますが、

ヴァルターは、2人に精神感応能力があるのでは?と考えます。

実際、物語の中で何度も起きる、不思議な出来事。

この双子は、どうあっても影響し合うのか、

20代、30代と人生が過ぎ時代に翻弄されるたびに、

2人の運命は収束しだして…。

双子の奇妙な人生のほかに、当時の混乱した情勢に振り回される人々も描かれ、

読んでいてハラハラハラハラ。

家族を失った少年少女の恋物語も、心に残ります。

ユリアンの親友・ツヴェンゲルも、非常に大事な存在。

各人物の行動と思惑が、後半明らかになり、

意外な事実に驚かされます。

当時の描写がとにかくすごい度:★★★★

どれだけ資料を読み込んだんだろうと思うほど、

当時の成功と貧困の差や、市街地の住民の様子、

文化の変化などが、詳細にリアルに描かれており、とにかく読み応えありです。

フランス革命を扱った「クロコダイル路地」、

イギリスの解剖学教室ミステリ「開かせていただき光栄です」、

ドイツ30年戦争を描く「聖餐城」などと同じく、

やはり皆川作品の重厚さ壮麗さはすごい!と、改めて思わせる作品でした。

ウィーンの上流社会から始まった運命は、華麗なハリウッドを経て、

強者の思惑が錯綜する上海で、ついに交わる…。

重厚ながら、読むのが止まらない傑作!

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