作者名:ケイト・モートン 創元推理文庫
1913年オーストラリアの港にたったひとり取り残されていた少女。名前もわからない少女をある夫婦がネルと名付けて育て上げる。そして2005年、祖母ネルを看取った孫娘カサンドラは、祖母が英国、コーンウォールにコテージを遺してくれたという思いも寄らぬ事実を知らされる。なぜそのコテージはカサンドラに遺されたのか? ネルとはいったい誰だったのか? 茨の迷路の先に封印された花園のあるコテージに隠された秘密とは?
祖母から英国コーンウォールの崖の上にあるコテージを相続した孫娘カサンドラは、祖母ネルの書き残したノートと謎めいた古いお伽噺集を手に英国に渡る。 今はホテルとなった豪壮なブラックハースト荘、その敷地のはずれ、茨の迷路の先にあるコテージの手入れを進めるうちに、カサンドラは封印された庭園を見出す。そしてブラックハースト荘の秘密とは……?
挿入されるおとぎ話、丁寧に語られていく、過去の真実。
美しく、悲しい、大作ミステリです!
多くの語り手が紡ぐ物語度:★★★
過去と現在、オーストラリアとイギリス、と視点が切り替わるので、登場人物が多いです。
これも、ポイントの1つかと。
主要な人物以外の目線でも語られるので、
「あ、この人はこう思ってたんだ。」「実はこういうことだったのか。」と、
だんだん詳しい事情が分かってきます。
絡まった糸が、次第にほどけていき、
真実の姿が明らかになっていく…そういうイメージかと。
いろいろな登場人物の心情に触れるので、
気持ちのすれちがいに悲しくなったり、嫌なことをする人でも嫌いになりきれなかったり。
切なさが、増します。
同時に、圧倒的な筆力で描かれる、一族の壮大な物語に、
グイグイ引き込まれて、この美しく残酷な世界に、すっかり魅了されてしまいました!
作者の美しい文章と、物語の構成力が好きになったので、
「秘密(上・下)」も読んでみましたが、これもすごくおすすめです。
おとぎ話が、素敵で意味深度:★★★★★
主人公の一人が、謎のおとぎ話作家・イライザです。
物語のカギを握る人物で、その独特の世界観でつづられたおとぎ話は、
とても印象深いもの。
多くの謎を残したまま失踪しています。
彼女が記し、カサンドラがのちに手に入れた、おとぎ話が挿入されるのですが、これが何とも魅力的。
美しく象徴的で、どこか恐ろしい…。
本筋ではないストーリーが挿入されると、より雰囲気が増すというか、ぐっとくるというか!
読み終わった後、おとぎ話の部分を再読して、
こういうメッセージが込められてたのかなと考えていくと、この作品をより楽しめるかもしれません。
伏線がはられた上質なミステリ度:★★★★
序盤で、あることが何気な~く語られていますが…。
実はこれがすべての悲劇の元凶で、びっくり。
一族の歴史ものという感じもしますが、後半はやっぱりミステリーだなぁと思いました。
そして、母と子の愛の物語でもありましたね~。
自分のルーツ、誰が自分の母だったのかを探るネルの物語であり。
大きな悲しみを抱えながら、祖母の謎を解こうとするカサンドラの物語であり。
ブラックハースト荘の、アデリーンとローズの母子の物語でもありました。
イライザとローズの、いとこ同士の愛情にも注目です。
もう少しだけ気持ちをかよい合わせていたら、幸せなおとぎ話になったかもしれないのに…。
それでも、最後には希望と優しさが残ります。