
作者名:桜庭 一樹 創元推理文庫
“辺境の人”に置き忘れられた幼子。この子は村の若夫婦に引き取られ、長じて製鉄業で財を成した旧家赤朽葉家に望まれ輿入れし、赤朽葉家の“千里眼奥様”と呼ばれることになる。これが、わたしの祖母である赤朽葉万葉だ。―千里眼の祖母、漫画家の母、そして何者でもないわたし。旧家に生きる三代の女たち、そして彼女たちを取り巻く一族の姿を鮮やかに描き上げた稀代の雄編。第60回日本推理作家協会賞受賞。
長い長いドラマを、一気に見たかのような読後感。
3人が生きる独特の世界に引き込まれる、壮大な傑作!
年代記を描き切った度:★★★★★
桜庭さんは、初期の「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」や、ゴシックシリーズから読んだので、
若者向けの青春・ミステリ小説のイメージがありました。
その後いつの間にか、直木賞「私の男」などなど、大御所作家になっていたような…。
私が、桜庭さん、重厚なの書くのね…と最初にびっくりしたのが、この「赤朽葉家の伝説」でした。
山の上の旧家・赤朽葉家に嫁いだ、未来視の力をもつ、祖母・万葉。
激しい気性をもち、伝説のレディースの後に漫画家となった、母・毛毬。
特にこれといった特徴もなく、そんな自分が好きになれない、毛毬の娘・瞳子。
この3人の人生が、もう、とにかく読んだら止まらないんです!
特に、万葉と毛毬の人生はすごすぎて、作者の表現も素晴らしくて…。
わきを固める登場人物の描写も素晴らしく、この時代に生きる人々が、
何に悩み、何を支えに生き抜こうとしていたのかが感じられ、じ~んときます。
ボリュームのある作品でしたが、ほぼ一気読みしてしまいました!
祖母と母、激動の人生度:★★★★★
祖母・万葉の少女時代から話は始まるのですが、もう最初の一文から、物語に引き込まれます。
終戦のごたごたが残る、激動の時代。
‟辺境の人”と語り手が書く、山脈の奥に隠れ住み、旅をする人々に置いて行かれた子どもだった万葉。
未来視の力があった彼女は、赤朽葉の千里眼奥様として、波乱の人生を送ることに。
その力ゆえか、時代ゆえか、彼女の人生がいちばん神秘的に語られています。
何人かの子宝に恵まれつつも、自らの力と時代の波に苦しみ、
それでも姑とともに製鉄所を守ろうとしますが…。
素直で教養があまりないからか、純粋な目で世界を見る部分があって、魅力的な人物。
旧友と、ある場所を目指し歌いながら山を登るシーンが、切なくて美しくて好きです。
万葉の娘の毛毬は、小さいころから激しい気性で、伝説の不良少女に。
とにかく目立つ美女でよく暴れますが、根は優しく、彼女もまた魅力的な人物です。
親友の蝶子との話は、この物語でも特に印象に残る部分。
好き勝手に生きる田舎の不良少女も、どうしようもない喪失の経験をし、
大人にならざるを得なくなりますが、
彼女が選んだ道は、なんと漫画家!
しかも売れっ子作家になってしまうというから、色々とただ者ではない…。
毛毬の気性と、いずれも個性的な他の子どもたちと、センセーショナルな事件があったせいか、
もっとも‟激しい”年代記に感じました。
悩みは尽きない度:★★★
最後に語るのは、毛毬の娘・瞳子。
現代社会に生きる、若い平凡な女性です。
このころには、赤朽葉家も、だいぶ人が少なくなりさみしい感じ。
あまりにも個性的だった祖母と母に比べると、本当に等身大の女の子。
祖母の謎を解くために、いろいろと過去の調査を始めるのですが、
その間も、自分の価値について悩み続けます。
非凡でも平凡でも、激動の時代でも比較的平和でも、人は悩みもがき続けるんだなぁ…
と思わせる人物。
そんな彼女が、最後に涙するシーンで、なぜか私も涙が…!
別に悲しいシーンとかでもないんですけど、
これまで読んできた内容と、自分が生きていくってことが、急に胸に迫ってくる…
そんなシーンだったと思います。
特別な読書体験がしたい人に、おすすめです。
朝ドラとか、大河ドラマが好きな人も、ぜひ!