作者名:ポール・ギャリコ 創元推理文庫
あたしはトマシーナ。毛色こそちがえ、大叔母のジェニィに生きうつしと言われる猫。あたしもまたジェニィのように、めったにない冒険を経験したの。自分が殺されたことから始まる、不可思議な出来事を…。スコットランドの片田舎で獣医を開業するマクデューイ氏。動物に愛情も関心も抱かない彼は、ひとり娘メアリ・ルーが可愛がっていたトマシーナの病気に手を打とうともせず、安楽死を選ぶ。それを機に心を閉ざすメアリ・ルー。町はずれに動物たちと暮らし、“魔女”と呼ばれるローリとの出会いが、頑なな父と孤独な娘を変えていく。ふたりに愛が戻る日はいつ?『ジェニィ』と並ぶ猫ファンタジイの名作、新訳決定版。
賢いトマシーナ、甘えんぼのメアリ・ル―、偏屈なマクデュ―イ氏、優しいローリ。
魅力的な登場人物が、悩みながら変わっていく!
ハラハラする傑作ファンタジーです。
人生の苦悩を描いた大人ファンタジー度:★★★★★
スコットランドの片田舎に住む、ある獣医師の家族と飼い猫の物語です。
マクデュ―イ氏は、獣医なのに動物が嫌いで、
診察中も冷淡な態度を崩さない、そんな人物。
動物からの感染で妻が病死してからは、さらに態度が硬化してしまったようです。
彼が唯一大切にしているのが、一人娘の幼い少女メアリ・ル―。
飼い猫のトマシーナがとにかく大事で、出かけるときはぬいぐるみのように抱っこして運ぶくらい。
物語の語り手の一人で、飼い猫のトマシーナは、
メアリ・ル―の甘えっぷりに辟易することもあるけれど、
しょうがないわねぇ~と、娘感覚で優しくしてあげています。
このトマシーナが語る文章は、猫の気まぐれと美意識に満ちていて、読んでいて楽しい!
しかし楽しく読んでいたら、なんとトマシーナが病気になり、
マクデュ―イ氏に、安楽死させられてしまうという衝撃的な展開が…。
この事件がきっかけで、メアリ・ル―は心を閉ざしてしまい、
娘の尋常ではない変化に、最初はただ怒っていたマクデュ―イ氏は、
だんだん混乱してしまいます。
家族の絆が危機を迎えた時、彼は‟魔女”と呼ばれる若い女性ローリと出会い変わっていくのですが、
メアリ・ルーの変化は悪化していき…。
そして、途中から語り手となる謎の存在が物語を引っ掻き回し、怒涛のクライマックスへ!
読者は、ああ大丈夫かなぁ…とひたすらハラハラしますが、
素敵な素敵な展開が待っていますので、最後を楽しみにお読みください!と言いたいです。
厳しくも優しい物語度:★★★★
自らを省みなかったために、苦境に立たされるマクデュ―イ氏。
彼は、本当は人間の医者になりたかったけれども父に許されず、
動物が原因で妻が死んでしまい、確かに色々抱えている人物なのですが、
動物や飼い主に優しくしなかったツケは回ってきてしまうのでした。
母を亡くしたメアリ・ル―は、大事なトマシーナが死に、
その時に好きな父への信頼も失ってしまいます。
まだまだ小さい子どもなのに、何とも不憫。
森の奥に一人で住むローリは、本人が望む暮らしをしており、迫害を受けたりもしませんが、
それでも「いかれたローリ」「赤毛の魔女」などと呼ばれ、人からは距離を置かれがち。
マクデュ―イ氏の親友のぺディ牧師は、父娘の関係に心を痛め、
賢く美しい飼い猫トマシーナには、痛々しい悲劇が。
このように、メインの登場人物は、それぞれ厳しい立場に置かれてしまうのです。
しかし、その中で少しずつ成長していく描写は感動的で、ちゃんと優しさがある物語!
猫ファンタジーですが、登場人物の変化を丁寧に綴り、
人と人、人間と動物の絆を描く感動物語でもあるのです。
個人的にジェニィよりおすすめ度:★★★
猫ファンタジーの傑作として有名なのが、同じくポール・ギャリコの「ジェニィ」。
猫になってしまった少年が、ジェニィという猫に出会い、
2人で冒険を繰り広げ、絆を育むという物語です。
有名作品と言えばこちらみたいですが…個人的には、「トマシーナ」の方が好き!
「ジェニィ」も面白かったんですけどね~。
嫌な奴だけれど嫌いになれないマクデュ―イ氏と、素敵に気高く賢いトマシーナの魅力が強い…。
猫好きは、両方読むといいと思います。
‟猫(というか動物全般)好きのための大人のファンタジー”という表現がぴったりの名作なので、
猫好き動物好き、ファンタジー好き、昔の名作が好き、という人はぜひぜひ。
読み終わった後、家族に、身の回りの人に、動物に優しくしたくなる。
名作家の心に響くファンタジー作品を、ぜひ!