作者名:ケイト・モートン 創元推理文庫
1961年、少女ローレルは恐ろしい事件を目撃する。突然現われた見知らぬ男を母が刺殺したのだ。死亡した男は近隣に出没していた不審者だったため、母の正当防衛が認められた。男が母に「やあ、ドロシー、久しぶりだね」と言ったことをローレルは誰にも話さなかった。男は母を知っていた。母も男を知っていた。彼は誰だったのか?ケイト・モートンが再びあなたを迷宮に誘う。
第二次世界大戦中、ローレルの母ドロシーは、ロンドンの裕福な婦人の屋敷に住み込むメイドだった。向かいに住む作家の美しい妻に憧れていた彼女には婚約者もいたが、ロンドン大空襲がすべてを変える。2011年、ローレルは死の近い母の過去を知りたいと思い始める。母になる前のドロシーの過去を。それがどんなものであったとしても…。翻訳ミステリー大賞・読者賞W受賞の傑作。
上品で美しく、緻密なミステリが素晴らしい、ケイト・モートン。
母の「本当の秘密」を当てられた人は、ミステリ上級者!
1人の女性の秘密が何と…度:★★★★
1961年、イギリスの田園地帯で、両親と妹弟たちと平和に暮らしていた、長女ローレル。
彼女は少女時代のある日、突然訪ねてきた男を、
母が持っていたケーキ用ナイフで刺殺する現場を目撃してしまいます。
それまで問題になっていた不審者と男がよく似ていたため、
母の行動は突如襲われたことによる、正当防衛と判断されたのですが…。
ローレルは、男が「やあ、ドロシー」と母の名を呼び話しかけた場面を、見てしまったのです。
それから50年がたち、大女優となったローレルは、
心身ともに限界を迎えそうに弱った、老齢の母の過去を、再び気にするように。
若き日の親友であったという、ヴィヴィアンの名前に示す、過剰な反応。
おそらく知り合いであったはずの、刺殺した男…。
3人の妹と末の弟、優しい父と母に愛された、幸福な我が家の記憶。
しかし、母の過去には、何かとんでもない出来事があったとしか、思えない。
第2次世界大戦中に起きた事件が元凶に違いない、と判断したローレルは、
ついに母の過去をしっかりと調べだすのでした。
そして物語は、ローレルが調査する現代のパートと、
ドロシー・婚約者ジミー・友人ヴィヴィアン、この3人が語り手となる過去のパートで、
交互にじっくりと綴られていきます。
読み進めるにつれて、不穏さを増していく、過去のパート。
いつの間にか引き込まれていて、下巻は「どうなっちゃうの?」と止まらない…。
まんまと騙された!度:★★★★★
最初は、過去を調べる娘ローレルが中心で語られますが、
その後若き日の母ドロシーの、無邪気な少女時代へと物語が移り、
恋人でのちに婚約者となる、貧しくも優しい青年ジミー、
ロンドンで知り合う、裕福で美しい、有名作家の若き妻ヴィヴィアンの人生も、
それぞれ綴られていきます。
幼い日々の描写が終わり、若き日の3人が、ついに戦時中ロンドンで出会い、
それからは、話が意外な方向へ進むのですが…。
ハラハラしながら読み、なるほどこんなことがあったから、
ドロシーは変わっていったのか、と納得したところで…
ある驚きの事実が!
物語の壮大さや緻密さは「忘れられた花園」の方が、やや上かな?と個人的には思いましたが、
「忘れられた花園」と同じくらい、最後は「ああ!なるほど!」となりました。
美しい文章と、ハラハラ度を増していく展開に引き込まれ、
最後に納得の結末を迎える、良質な楽しめるミステリ作品!
「忘れられた花園」といい、とにかく作品全体が、悲惨なエピソードもあるにもかかわらず、
優美で緻密で上品で、素敵な雰囲気。
単行本で翻訳されている「湖畔荘」も、文庫化したら、ただちにゲットする予定です。楽しみ!
悲しく美しい物語度:★★★
「忘れられた花園」もそうでしたが、人々の心の結びつきやすれ違いが、
丁寧に描かれ、重厚な作品。
メインとなる登場人物も、それぞれ複雑な事情を抱えており、
読むほどに感情移入してしまい、魅力的でした。
若さと美しさゆえに、ときに傲慢だけれど、よりよい立場になろうと必死なドロシー。
苦労人だけれど、純粋な優しさを失わない、好青年のジミー。
哀しみを抱えながらも、他者を思いやろうとするヴィヴィアン。
大女優となっても、驕らず家族を想い続ける、ローレル。
彼らの、悩みと苦しみと愛情の物語を読み終わったとき、
切なさを感じながらも、胸に温かいものがやどる…
そんな余韻をもたらす作品です。
どちらを読んでも楽しめますが、
「忘れられた花園」と「秘密」の、読み比べがおすすめ!
大作ですが、ハマるとグイグイ読めちゃいます。