作者名:川瀬 七緒 講談社文庫
都内に住む老人が自宅で惨殺された。奇妙なことに、遺体は舌を切断され、心臓をズタズタに抉られていた。さらに、縁の下からは「不離怨願、あたご様、五郎子」と記された呪術符が見つかる。なぜ老人はかくも強い怨念を受けたのか?日本の因習に絡む、恐るべき真相が眼前に広がる!第57回江戸川乱歩賞受賞作。
床下から見つかったのは、見る者の背筋を凍らせる呪術符。
しかし、その呪い方には不可解な点が…。
調査を開始した、若き学者と孫娘がたどり着く、老人の秘密と呪いの真相とは?
本気の呪いと殺人事件?度:★★★★★
主人公の、仲澤大輔は、
因習や呪術、それにまつわる神事を専門に研究している、35歳の文化人類学者。
ぼろぼろの一軒家に住みながら、研究にいそしんでいましたが、
ある日、女子大生が訪ねてきます。
どこか思いつめた雰囲気のある訪問者・砂倉真由は、
1か月前に、一緒に暮らしていた祖父が殺され、
縁の下から奇妙な物を見つけたというのですが…それが、非常におどろおどろしい呪術符!
見た人間が、本能的にまずいと感じて、目をそらしてしまうほどの、
‟本気”の怨念が込められたものでした。
しかも、何十年も昔に作られたものらしい。
しかし、孫娘によると、祖父は教師をしていた温厚な人物で、
これほどの強い呪いを、何十年も受け続けるほどの、
何かをしたのか、と考えても、ピンとこないらしいのです。
さらに、調べていくと、殺害現場からも、呪術を匂わせるものが見つかり、
専門家である大輔すら、混乱する不可解な点が。
事件を担当する刑事たちも、頭を悩ませている様子。
調べるほどに、老人の意外な一面も明らかになっていき…。
「呪い」という観点から、殺人事件の捜査を進めていく2人は、
ついに、驚愕の真相にたどり着きます。
一体何があって、これほどの強い怨念を受けたのか?
何十年も呪殺しようとしたのに、なぜ最後は惨殺したのか?
深く学んだ人間による、正式な呪いなのに、専門家すら混乱させる点が見つかるのはなぜか?
殺害現場から見つかった、タンチョウヅルの血がしみ込んだ塩の意味は?
‟呪う”という行為について考えさせられる、民俗学ミステリ!
やっぱり登場人物が魅力的度:★★★★
読んだら発狂する、と言われる本を取材することになった、
ライター達が遭遇する恐怖を描くミステリ「女學生奇譚」を読み、
面白かったので、デビュー作である本作を読んでみました。
どちらも、共通しているのは、主人公と仲間が、
どういう人物なのかが、しっかり描写されており、生き生きとして魅力的だということ。
「女學生奇譚」も、「よろずのことに気をつけよ」も、
恐ろしいものに関わってしまった人間の、悲劇や恐怖を描いていますが、
作品が思っていたよりも、ずどーんと重たすぎる雰囲気になっていないのは、
この点が大きいと思います。
そうじゃないと、ただひたすら怖い本になっていたかも…?
おどろおどろしいけど読みやすい度:★★★
惨殺死体や呪術符、因習と呪い、などなど、
おどろおどろしいものがテーマの作品ですが、
登場人物が生き生きしていて、テンポよく進んでいくので、
割とさくさく読み進められます。
「女学生奇譚」も、本作も、江戸川乱歩賞と横溝正史賞が好きな人に、おすすめ。
一体過去のどんな出来事が、これほどの怨念を生み出したのか…。
呪わずにはいられなかった、犯人の正体とは?
呪い×民俗学×殺人ミステリに惹かれる人は、ぜひ!