作者名:米澤 穂信 集英社文庫
大学を休学し、伯父の古書店に居候する菅生芳光(すごう よしみつ)は、ある女性から、死んだ父親が書いた五つの「結末のない物語(リドルストーリー)」を探して欲しい、と依頼を受ける。調査を進めるうちに、故人が20年以上前の未解決事件「アントワープの銃声」の容疑者だったことがわかり――。五つの物語に秘められた真実とは? 青春去りし後の人間の光と陰を描き出す、米澤穂信の新境地。精緻きわまる大人の本格ミステリ。
苦境を脱するために受けた、父の痕跡を探す娘の依頼。
残酷な物語に隠された意味が解るとき、過去の真実が一気に押し寄せる!
構成にうなる度:★★★
経済的な事情により、大学を休学せざるを得なくなった、菅生芳光。
東京に留まるために、伯父の古書店に居候をしており、
ままならない状況に無気力になった彼は、店を積極的に手伝うこともなく、
失意の日々を送っています。
そんなとき、長野から来たという若い女性・北里可南子から、
ある依頼を受けてくれないか、という相談が。
少し前に病死した父・参吾が昔書いたという、
5つの結末のない物語:リドルストーリーを、探し出してほしいというのです。
復学資金のために、彼女の依頼を受けることにした芳光は、
叶黒白という筆名で書かれた、やや残酷で奇妙な短い小説を、
必死で捜索し始めるのですが…。
叶黒白こと北里参吾は、20年以上前にベルギーで起きた未解決事件、
「アントワープの銃声」で、多くを失ったことが判明。
このころ、幼かった可南子は、ほとんど何も覚えていなかったのですが、
実は5つのリドルストーリーに、事件の真相が隠されていて…。
1章ごとに見つかる遺された物語、進むほど謎めく父の過去、
合間に、妙に印象に残るリドルストーリーがそのまま挿入され、
クライマックスで、一気に暴かれる真相に驚く…精緻なミステリ!
大作というほどのボリュームはありませんが、
無駄なく構成されているな~と感じる、洗練された作品です。
5つのリドルストーリーの魅力度:★★★★★
ルーマニアの町で、おかしな様子の母親に出会ったことから始まる「奇蹟の娘」。
インドの、転生について独特の考えを持つ場所で、
前代未聞の裁判が行われる「転生の地」。
中国・南宋時代の、勇猛果敢な武将に伝わる話「小碑伝来」。
南米ボリビアに住む男が、ある事情で、
山を越えようとした妻と娘を案じる「暗い隧道」。
スウェーデンで、雪に埋もれた若い女の遺体が発見され、
20年ほど前の、ある出来事の記憶が呼び起こされる「雪の花」。
結末のないリドルストーリーですが、作中に、
実は用意されていた、最後の一文が出てきます。
どれも、10ページ前後の短い作品ですが、
何だか意味ありげで、ときには残酷な展開を迎え、印象に残る物語ばかり。
「追想五断章」という作品を構成するための話ですが、
単独で読んでも、けっこう面白い…。
そして、すべての断片が合わさって、最後に謎が解かれたときのインパクト!
まさに大人のミステリ度:★★★★
米澤作品では、「古典部」「小市民」シリーズや、「さよなら妖精」のように、
たとえ主人公が高校生でも、甘くない部分まで、しっかり描かれます。
もちろん、大人が主人公のミステリは、
「犬はどこだ」「儚き羊たちの祝宴」などなど、更にしっかりビター。
そして本作も、ハッキリ言って、苦み渋み強めの、大人ミステリです。
主人公も、他の登場人物も、うまくいかない事情を抱え、
たどり着く真相も、事件が事件だけに、解けてスッキリ!だけで終わらないもの。
読んでいるときに、不安感がまとわりつく作品ですが、
それでも、ついつい読み進めてしまう魅力がありますし、
最後の仕掛けは、さすがは米澤さん!なのです。