作者名:金子 薫 河出書房新社
不朽の古典『見聞記』に楽園と謳われた島の架空の港町。新町長の下、観光資源の美麗な蝶と花畑を護るため、海鳥を毒矢で殺す鳥打ちの職に、三人の青年が就いていた。しかし島の経済が陰りを見せるにつれ、鳥打ちの一人、天野は自らの為す仕事に疑念を抱く。問うてはいけない問いは、やがて町をあげての大騒動に発展して―三人の青年の自由を巡る圧倒的小説。
第51回文藝賞を受賞しデビューした作家、その2作目は…
架空の港町の、架空の仕事をする、悩める青年の物語!
淡々とした奇妙な世界観度:★★★★
物語の舞台は、「架空の港町」という名前で、地図に載ってしまっている島。
もとは漁業が盛んでしたが、新町長が就任してからは、
ネルヴォサの花畑と、美しいアレパティロオオアゲハという蝶を町の象徴とし、
観光業に力を入れるようになります。
アレパティロオオアゲハを、海鳥が狙って食べてしまうので、
それを阻止するために、3人の青年が鳥打ちとして雇われ、10年。
そのうちの1人・天野は、観光業が下火になるにつれて、
鳥を殺すことに何の意味があるのかと葛藤するようになり、鳥を殺せなくなってしまいます。
2人の仲間が心配するなか、新町長と監督官は、
休暇が必要と、天野に謹慎を命じるのですが…その後、大騒動が!という物語。
描写は細かいけれども、
どこか浮世離れした感がある、不思議な島と住民が描かれ、
冷静な文章で、淡々と物語が語られ、途中変わった演出もあり、
全体的に、変わった物語だなぁ、という印象がありました。
甘さのないおとぎ話度:★★★
おとぎ話というには、生々しい悩みが描かれる作品ですが、
世界観と、奇妙な登場人物のためか、
何となく童話めいた雰囲気を感じられる作品かと。
自分がやっていることに疑問をもち、悩みを解決するためにどうすればよいのか、
青年が悩みに悩んだ末に、周囲が驚く行動に出る…そして意外な結末。
最後の一行が何となく好きです。
何となく…をよく書きますが、はっきりと理由を自覚するためには、
あと何回か読み返さないといけないかも?
好きになった人には、あれ久々に読もうかな…と思わせる、謎の魅力を発揮する本です。
読み手にゆだねる?度:★★★★★
綺麗な表紙に一目ぼれし、購入したのですが、
読み終わった後、しばらく「……。」となりました。
とても個性的で、おとぎ話なのか、何かの風刺なのか、生き方を問いかける作品なのか、
最初はよく分からず。
でも好きな雰囲気だったので、しばらくたって再読し、
あ、やっぱり好きかも…となりました。
読み手が、青年たちから何を受け取るか、がポイントの作品なのか…
好き嫌いが、分かれそうではあります。
とにかく面白い!という本より、個性的な文学が読んでみたい、という人におすすめ。
滑稽で、残酷で、優しさもあり…。
たまには、変わった味わいの作品もいかがですか?