【短編集】人形~デュ・モーリア傑作選~|異常な愛の物語を描いた表題作のほか、おぞけが走る独善的な女性の独白「笠貝」や、上流階級に愛される牧師の日常「いざ、父なる神に」といった、人間の暗部を描いた短編が、たっぷり…。いっそ、癖になるくらい後味が悪い!でも止まらない短編集!

作者名:ダフネ・デュ・モーリア   創元推理文庫

判で押したような平穏な毎日を送る島民を突然襲った狂乱の嵐「東風」。海辺で発見された手記に記された、異常な愛の物語「人形」。独善的で被害妄想の女の半生を独白形式で綴る「笠貝」など、短編14編を収録。平凡な人々の心に潜む狂気を白日の下にさらし、秘めた暗部を情け容赦なく目の前に突きつける。『レベッカ』『鳥』で知られる、名手デュ・モーリアの幻の初期短編傑作集。

怪奇現象も連続殺人もないのに、恐ろしい!

人間のいや~な物語は、どうして読み始めると止まらなくなるのか…。

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いっそすがすがしいイヤ度:★★★★★

「レベッカ」「レイチェル」が有名なデュ・モーリア。

恥ずかしながら、作品を読んだのは初めてでした。

初期の傑作短編集、ということで手に取ったのですが、

内容がとても洗練されていて、繊細な描写と読者に想像させる部分が、

短い作品の中にまとめられていて、う~ん、面白かったです。

ただ、後味わっる…。

怪奇現象もなく大事件もないのですが、驚異の‟イヤ度”。

どの短編でも、人間の秘められた暗部が容赦なく描かれていて、

すれ違いやとことん利用される人々が悲しい。

作中に出てくる人でなしの描写も、運命に流される悲しい人々の姿も、

悲惨ながらも鮮やかに描かれていて、作者の力量を感じるんですけど、

胸をうっとえぐられるようなインパクトが、ところどころにありますね…。

ただ、イヤミスがいつの間にかハマってしまうように、この本も中盤には耐性が。

それ以降は、素直に楽しみ、おおいにヒヤヒヤしました。

クオリティの高い短編度:★★★★

ある青年が恋をした相手には、大きな秘密があり…

退廃的な雰囲気が強い表題作「人形」。

平和な島の住民の暮らしが、嵐によって一変する「東風」。

紹介文に載っていたこの辺の作品は、確かに面白かったんですけど、

私がいちばん印象に残ったのは、上流階級との交流を楽しむ、

男前で人気者ながら俗っぽい神父が主人公の

「いざ、父なる神に」「天使ら、大天使らとともに」です。

とことん利己的で、もはやサイコパスかしら?と思うくらい、

弱い立場の人々を追い詰めても、罪悪感を感じない彼の、優雅でどこか異常な日常。

ひどい男だなぁ…と思い読みながらも、そんなに嫌いになれないのは、

作者の術中にはまっているんでしょうか。

同じく嫌な人間が主人公ながら、はるかに嫌悪感が強いのが「笠貝」。

自分では人を優先しているから不幸なんだと思い込んでいる、

実際は独善的で支配欲が強い女性が語り手。

素晴らしく読者をドン引きさせます。

絶対に近くにいてほしくないタイプの人間で、その恐るべき思考パターンに戦慄!

対して、恵まれない環境から、犯罪に手を出して堕落していってしまう女性を描いた

「ピカデリー」と「メイジ―」は、ひたすら胸が苦しい…。

根は善良なのに、ある種の流されやすさがあるゆえに、落ちていく姿の描写が秀逸で、

2つとも忘れがたい物語でした。

このほかも、ハッピーな話ではないのですが、それぞれ個性があって楽しめます。

嫌だけど止まらない!度:★★★

惹かれ合ってしまった若い男女の、手紙のやり取りの変化を楽しむ「そして手紙は冷たくなった」は、

後半、おいおい!と思わず突っ込んでしまう展開に。

いかにも、この短編集らしい作品でした。

幸せいっぱいで、単身赴任の夫を待つ妻に、親友から電話が…。

「痛みはいつか消える」は、どこの家でも起こり得る話で、リアルで怖い怖い!

人間の身勝手さや、秘められた本性といった暗部を、

洗練された文章で容赦なく浮き彫りにする、恐るべき負のパワー全開の傑作短編集。

なかなかのパワーなので、弱っているときに読むのはおすすめしません…。

悲惨なんだけれど、悲劇の予感しかしないんだけど…何だか止まらない!

イヤミスをつい読んでしまう人に、おすすめです。

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