
作者名:矢部 嵩 角川ホラー文庫
叔母からの突然の電話で、祖母が風邪をこじらせて死んだと聞かされた。小学5年生の僕と父親を家に招き入れた叔母の腕は真っ赤に染まり、祖母のことも、急にいなくなったという従姉の紗央里ちゃんのことも、叔母夫婦には何を聞いてもはぐらかされるばかり。洗面所の床からひからびた指の欠片を見つけた僕はこっそり捜索を始めたが…。新鋭が描いた恐ろしき「家族」の姿。第13回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作。
誰もかれもが、まともじゃない!
読めば読むほど、サイコな世界にどっぷりつかる、
インパクト大のホラー小説です。
この家、おかしいにもほどがある!度:★★★★★
小学五年生の‟ぼく”の家では、毎年長期休暇に入ると、
叔父叔母夫婦と祖父母、従姉の紗央里ちゃんの家に行くのが恒例行事です。
けれども今年は、受験生の姉と母は留守番で、
‟ぼく”と父だけが、叔母さんの家に行くことに。
着いた直後、腕まで血まみれの叔母さんに迎えられ、
家出中でいないらしい紗央里ちゃんを、誰も心配しておらず、
叔父さんも、おじいちゃんも、様子がおかしい。
ご飯はカップ焼きそばしか出てこないし、
床に落ちているのを発見した指は、
数か月前に、突然病死したらしい、おばあちゃんのものみたい。
…………最初から容赦なく提示された異常さが、読めば読むほど加速していきます。
語り手の‟ぼく”の言う内容も、家族の会話も、
微妙に異常。間違いなく異常。
何故だか逃げることもせず、おばあちゃんの遺体の残りを見つけよう!と思った‟ぼく”は、
伯母夫婦の眼を盗んで、家を捜索するのですが…。
見つかる見つかる、見つけてはいけないものが!
正直、幽霊屋敷の百倍怖いです、こっちの方が(汗)
少年の目線の異常度:★★★★
主人公が、恐るべき秘密を持つ家に関わってしまい、
つぎつぎとんでもないものを発見し、恐怖に突き落とされる。
それは、よくある話というか、正常な視点から描かれた恐怖です。
この作品が変わっているところは、
語り手の‟ぼく”自身が、異常な神経の持ち主であり、彼の視点で綴られること、
そもそも、叔母夫婦も自分の家族も、まともな人間がいないこと、
というか、物語を通して、普通の人間なんて出てこないこと!
とことん、異常な目線から綴られた、異常な家族の物語なのです。
正直、あまりにもサイコ展開すぎて、
衝撃シーンでは、思わず脱力した笑いが出てしまうほど(汗)
これだけうえ~っ!という表現が満載の作品なのに、
妙に明るいというか、暗さがあまり感じられないというのが、逆に恐ろしい!
この作品に込められたメッセージについて考えるほど、怖くなってきた…。
あなたは、誰がいちばん怖くなるでしょうか…?
群を抜く気持ち悪さ!度:★★★
もう、本当に描写と会話が気持ち悪い!
指を見つけてしまった少年は、他の部分も探し出してしまうのですが、
そこ?よりによって、そこにあるの?という展開です。
ぼく、電話越しの姉、父、叔父、叔母、祖父。
出番が増えるほど、おのおのの異常性を出してくる、恐るべきメンバー。
彼らにひたすら振り回されたのちに、何とも意外な結末が待っています。
独特の冷静でドライな感性から覗いた、狂気の世界を描いた作者。
…ちょっと他の作品も読んでみちゃおうかな?
おぞましいのに、続きを読ませる、不気味な不気味な物語!
いつの間にか、親戚の家が、紗央里ちゃんの家みたいになっていませんように!