作者名:澤村 伊智(いち) 角川ホラー文庫
「などらきさんに首取られんぞ」祖父母の住む地域に伝わる“などらき”という化け物。刎ね落とされたその首は洞窟の底に封印され、胴体は首を求めて未だに彷徨っているという。しかし不可能な状況で、首は忽然と消えた。僕は高校の同級生の野崎とともに首消失の謎に挑むが…。野崎はじめての事件を描いた表題作に加え、真琴と野崎の出会いや琴子の学生時代などファン必見のエピソード満載、比嘉姉妹シリーズ初の短編集!
短編も面白い!
比嘉姉妹シリーズが、ますます好きになる短編集です。
どの話も面白い度:★★★★★
1つ目に収録されているのが、真琴が活躍する「ゴカイノカイ」。
痛い…という謎の声が聞こえ、入居者がすぐに退去してしまう、雑居ビル5階の貸事務所。
困り切ったオーナーは、‟鎮め屋”に怪異を何とかしてもらおうとするのですが…。
意外な真相と、真琴のかっこいい姿が楽しめる話です。
2つ目は、美晴が小学生時代に遭遇した怪異「学校は死の匂い」。
体育館にいる、おかしな姿勢で歩き、
キャットウォークからの飛び降り自殺を繰り返す少女の霊。
美晴は、彼女を成仏させ、姉より優れていると証明しようとします。
しかし、最後には悲しい真実にたどり着くことに。そして、恐怖のラスト!
ホラーミステリとして、面白い短編でした。
3つ目は、居酒屋でのパワハラから驚きの展開を見せる「居酒屋脳髄談義」。
3人の男性社員の、女子社員に対するひどいパワハラに、序盤はイライラしますが、
やり取りは、だんだん妙な方向に転がりだして…
最後は少しニヤリとしてしまいました。
4つ目の「悲鳴」には、意外な人物が登場します。
まさか、この人の過去のエピソードが出てくるとは…。
大学の映画同好会の自主映画を撮影中に、悲鳴が聞こえるとメンバーが言い出します。
その後、予想外の事件が起き、一応の解決を見せるのですが…。
5つ目は、真琴と野崎の出会いの事件「ファインダーの向こうに」。
1枚だけ紛れ込んでいた、奇妙な写真。
その謎を解くための依頼で、野崎が初めて真琴の能力を目の当たりにします。
「ゴカイノカイ」と同様、意外な真相が楽しめる話。
そして最後は、ライター野崎の高校時代のエピソード「などらきの首」。
祖父母が住んでいるのは、‟などらき”という首をはね落とされた化け物の伝説が残る地域。
そこで化け物の首消失事件に出くわした少年は、高校生になり、
事件の話に興味を持った友人の野崎と、真相を暴こうとします。
ホラー感も、ミステリ感もたっぷりで、怖面白い!
本編ではあまり見られなかった人物の一面がみられるし、
不気味な怪異、驚きの真実、恐ろしい結末…
とあって、1つ1つの短編が、読みごたえがありました。
人間も怪異も恐ろしい度:★★★
どれも怪異が絡む、不気味な話なんですけれど、
本当に怖い!という感じなのが、「学校は死の匂い」と「などらきの首」でした。
「学校は死の匂い」では、2作目「ずうのめ人形」に出てきた美晴の人物像が、より分かります。
姉妹の微妙な関係も伝わってきて、比嘉姉妹の家庭事情が余計気になる…。
幽霊の痛々しさに切なくなりつつも、やっぱり学校の霊って怖い!と思わせる展開です。
個人的に好きなのは、「居酒屋脳髄談義」。
最初は、なんだこの不愉快なパワハラ集団は!と怒りながら読んでいたんですけど、
冷静にやりかえす‟牧野さん”が頼もしく…ラストがお気に入り。
よく分からない状況で、だんだん不安感が増す雰囲気が、何とも悪夢的で好きです。
そういうこともあるのか、と驚くのは「ゴカイノカイ」と「ファインダーの向こうに」。
何となく、読んでいていちばん不気味だったのは、「悲鳴」。
どの話も、それぞれの持ち味があって、楽しめました。
表題作はさすが…!度:★★★★
個人的にいちばん怖かったのは、「などらきの首」!
さすがは表題作、というか。
野崎はこんな子だったのかとか思いながら読んでいたら…こ、こわっ!
一気に恐怖に突き落される構成が秀逸で、ぞーっとした…!
どの短編でも、人間の心の闇と、人ならざる者の恐ろしさが、がっつり描かれていました。
それぞれ異なる面白さが楽しめる、満足のホラー短編集。
ここまで読んだら、4作目「ししりばの家」を読むしかない!