作者名:城平 京 講談社タイガ
巨大な鉄骨を手に街を徘徊するアイドルの都市伝説、鋼人七瀬。人の身ながら、妖怪からもめ事の仲裁や解決を頼まれる『知恵の神』となった岩永琴子と、とある妖怪の肉を食べたことにより、異能の力を手に入れた大学生の九郎が、この怪異に立ち向かう。その方法とは、合理的な虚構の推理で都市伝説を滅する荒技で!?驚きたければこれを読め―本格ミステリ大賞受賞の傑作推理!
魅力的な登場人物と、「虚構の推理」が楽しめる傑作!
岩永琴子の物語に引き込まれる、人気シリーズ1作目!
コミカルかつ本格ミステリ度:★★★★
物語の始まりは、病院で青年・九郎に恋をした、主人公・琴子が告白をするところから始まります。
断ろうとする九郎に対し、彼の正体を見抜いていた琴子は、
自分の秘密を明かし彼を驚かせ、のちのち付き合うことに。
琴子の秘密とは、昔、怪異と呼ばれる存在に誘拐され、一眼一足となり、
彼らを知恵で助ける「知恵の神」となったこと。
対して、九郎の正体とは、ある事情で2種類の妖怪を食べ、異能を身に着けた存在であること。
いきなりファンタジー、あやかし奇譚っぽいですが、
この作品のメインは、あくまでもミステリ。
この異能の2人が、ある街で噂になっている亡霊「鋼人七瀬」を倒すために、策をめぐらせます。
「鋼人七瀬」は、スキャンダルに追い詰められて結果的に死んでしまったアイドルで、
死因のため顔がつぶれ、鉄骨を振り回して人を襲うという、とんでもない怪物。
想像力で実体化してしまった彼女、もともとはただの虚構に過ぎなかった彼女を、
どう虚構に戻し消滅させるのか…この解決策が、何とも斬新なミステリです。
「鋼人七瀬」の死にまつわる謎ときの後、
クライマックスは、怒涛の虚構推理ラッシュ!
琴子が用意した策は複数あり、その説得力と知略に唖然とします。
「鋭い推理で犯人を当てるミステリ」ではないけれど、
本格ミステリ大賞を受賞したのも納得の、驚異の作品。
作者は「名探偵に薔薇を」「雨の日も神様と相撲を」や原作を手掛けた漫画でも、
ある意味変則的な、インパクト抜群の設定と推理を披露しましたが、
この作品は特にそれが際立っています。
新しいタイプのミステリが読みたい人におすすめ!
新しい戦い・新しい推理度:★★★★★
怪異たちの知恵の神である、琴子。
鉄骨を振り回す凶暴な亡霊「鋼人七瀬」の存在は、古くから存在する怪異にとっても脅威であり、
何とかしてくれと相談されます。
怪異が力をもつようになるには、人々に語られ恐怖されることが大事だと言われますが、
言い方がアレですけど「今が旬の都市伝説」になってしまった鋼人七瀬は、
どんどん力をつけ、実際に人間が殺されるという事態に!
ここまで明確な存在になってしまった彼女を、虚構の存在に戻すために、
琴子が用いるのは、虚構の推理…
つまり、「鋼人七瀬という亡霊などいるはずがない」ことを説明する強力な推理です。
しかし、それは「正しい推理」ではなく、
「亡霊を妄想している人々を納得させ、かつ楽しませる合理的で刺激的な推理」。
この辺が新しい!そして面白い!
琴子の論戦を支えるのが、九郎の恐るべき異能。
それを発揮するために、とんでもない戦闘シーンがあり、
現実の戦いと虚構の戦いの混ざり合いが、圧巻のクライマックスです。
これは話題になるよな~というミステリ。
この変則ミステリを、シリーズ化するんだから、作者おそるべし!
井上真偽の「その可能性はすでに考えた」とか好きな人は、特におすすめします。
登場人物の魅力度:★★★★
魅力的なミステリをより面白くするのが、生き生きとした登場人物たちです。
浮世離れし、信念ゆえ時に冷酷だけれど、
九郎に受けるヒドイ扱いへのリアクションが笑えて仕方がない、琴子。
お嬢様なのに、下ネタも辞さない(笑)
人畜無害な外見なのに、琴子にだけ毒舌な九郎。
さらに、たまたま再会した九郎の元恋人の紗季。苦労人。
この3人のやり取りが、とにかくコミカルで笑えます。
怪異たちも、いい味出していらっしゃる!
ラスボス的存在のある人物も、妙に魅力的で、
本格ミステリであるけれども、お堅い作品ではなく、読みやすいです。
読めば人気に納得する、傑作ミステリ!
通常のミステリとは異なる魅力を、ぜひ味わってみてください!