作者名:鴇澤 亜妃子 創元推理文庫
死の神ダリヤの伝説が残る西の砂漠。十年もの間、砂漠に消えた家族の行方を探し続けている地図作りの青年カダムは、今日も探索を終えて落胆しながら帰宅した。そんな彼をレオンという怪しげな宝石商が道案内に雇いたいと言ってくる。だがカダムたちが砂漠の奥深くへと迫ったとき、そこに眠る恐るべき秘密が目を覚まし…。第2回創元ファンタジイ新人賞受賞の著者の意欲作!
妻を食べてしまった飢え渇く死の神…伝説に登場する願い石とは?
アドベンチャー感が強い、読みやすいファンタジー!
意外な読みやすさ度:★★★★
第2回創元ファンタジイ新人賞を受賞したという、デビュー作「宝石鳥」が気になっていたのですが、
文庫化されておらず、気合を入れて読む大作!という雰囲気なので、
文庫本コーナーで見つけた本作から、手を出してみました。
表紙イラストもすごくきれいですし。
紹介文を読んだ印象では、砂漠を旅する人々や魔術を使う者たちがいて、
不思議なアイテムがあって、そんな世界を訳ありの青年が冒険の旅をする…そんな話かと思いました。
実際に読んでみると…あら、意外と現代的で読みやすい!
遺跡を調べる大学教授の家族が、10年前、突然調査中に行方不明になり、
一家に引き取られ育った青年・カダムは、地図作成の仕事をしながら彼らの行方を捜しています。
国家などは架空なのですけれど、飛行機あり車あり、
砂漠の国アドハラの対岸にある北大陸マカブレスクは、文化レベルが高い模様。
ある夜カダムのもとに、高貴で美しい容姿だけれど、やけにひょうきんな青年宝石商・レオンが訪れ、
彼に依頼されて、旅の道案内をすることになります。
ただの仕事であったはずが、この行動がきっかけとなり、
砂漠の恐ろしい呪術師集団に関わり、いなくなった家族の手掛かりを得て、
さらに願いをかなえる石をめぐる争いに巻き込まれることに!
基本的には、家族の行方・伝説に隠されたメッセージ・呪術師集団の望みといった、
多くの謎を明らかにせんとする、謎解きありの砂漠アドベンチャー小説です。
そこに、神秘的かつやや不気味な伝説のファンタジー要素が絡み、
ラストに残るのが、人間の陰謀なのか考古学的解釈なのか神秘の力なのか、よめない…。
もう一つの顔を持っている人間が多く、伏線かな?と感じる箇所がちらほら。
勘がいい人は、真相を当てられるかも?ぜひ、チャレンジを!
神秘の伝説度:★★★★★
本作の軸となるのが、夫婦の神様の伝説です。
つねに飢えと渇きに苦しむ神・ダリアのために、
妻で豊穣の女神・アシュタールは、自身が持つ願い石を用いて、
彼の苦しみを取り除いてあげていました。
しかし、石を使いつくしてしまい、ダリアは飢えと渇きを抑えるため、
アシュタールを食べてしまいます。
残ったのは、女神の心臓だけ。
その後、どうなるかというと、この伝説には2つの結末があるのです。
この、女神が食べられるという変わった伝説が、作品に何とも言えない雰囲気を出しており、
伝説に対する学者の解釈が書かれているのも、面白い。
伝説のその後の話も、英雄となった王・2人の弟子に預けた特別な石・死の呪術…と、
いかにもファンタジーで神秘的!
現代に生きる人間の苦悩と、家族や一族の絆。
神の伝説と、願いをかなえるという神秘の石。
今を生きる人間と、神話の絡みに、引き込まれます。
最初は、乾石智子さんの「夜の写本師」みたいな、重厚な正統派ファンタジーかと思いましたが、
意外と、インディ・ジョーンズっぽい?
がっちりファンタジー設定で、読みにくいかな~と予想したら、そうでもなかったです。
人間ドラマとファンタジー度:★★★
「家族の絆」を、しっかり描いたファンタジーでした。
主人公・カダムは、10年もの間、大好きだった育ての親家族を探しますが、
もちろん生みの親についての謎があり、そこも物語の重要な部分。
そして彼以外にも、いろいろな家族のドラマがあります。
どの家族も、最後には大団円の結末を迎えてもらいたいものですが、
そこはまぁ、願い石が願いを叶えてくれるかどうかですね!
あ、そーいえば、一生懸命頑張ったわりに、気の毒なのが一人いたな…
彼も幸せになれますように(汗)
ワクワクする砂漠の大冒険!という感じではなく、登場人物も色々抱えている人間ばかり。
全体的に、大人のファンタジーでした。
砂漠、考古学、伝説の石、呪術師…こういったワードに惹かれる方はぜひ!
人の思惑が交差する、大人のファンタジーです。