作者名:ジョナサン・キャロル 創元推理文庫
ぼくは呆然としていた。目の前に、三十数年前に死んだ男の墓がある。そこに彫られた男の肖像が、なんとぼくそのものだったのだ! そのとき見知らぬ老婆が声をかけてきた。「ここにたどり着くまで、ずいぶん長いことかかったね」捨て児だったぼくは、両親の顔すら知らない。そう、自分が本当はなにものなのかも……衝撃作!
ウォーカーの日常に入り込む、理解不能な数々の出来事。
いくつもの悪夢が絡まり合い、謎が解け始めるとき、恐るべき存在が…!
日常を侵食する悪夢、ふたたび度:★★★★★
主人公のウォーカーは、30代の、俳優から映画脚本家になった人物。
互いに傷つけあってしまった結婚生活に別れを告げ、
ウィーンで猫と暮らしていました。
あるとき、たまに一緒に仕事をする、親友の映画監督ニコラスの紹介で、
女性芸術家の美女マリスと知り合い、
彼女が抱えるトラブルを切り抜けて、お互いに恋に落ちます。
幸せな生活を始めましたが、いきなり不幸な出来事が。
一緒に頑張ろうとする2人ですが、マリスが奇妙な物を発見します。
それは、ウォーカーそっくりの肖像画が描かれた、30数年前に死んだ男の墓!
好奇心で訪れたウォーカーは、そこで謎の老婆から謎の言葉を聞きます。
それから、日常の中で、説明のつかない奇妙な出来事が続き…。
捨て子だった自分は、いったい何者なのか?
なぜ謎の人物に、「レドナクセラ」と呼ばれるのか?
目撃したありえない存在は、幻ではないのか?
マリスや理解ある友人の助けを借りて、謎を解こうとするウォーカー。
彼を待ち受ける、戦慄の結末とは…。
最初は、悩める男女の恋の行方と、魅力的なウィーンの描写で始まりますが、
次第に、キャロルらしい、幻想的な悪夢の世界へと引き込まれます。
予想できない展開度:★★★★
物語の序盤は、「月の骨」と同様に、
ついに運命の半身に出会ったのだろうか、とお互いにときめき悩む、
男女の話から始まります。
しかし、読み進めるうちに、何だか奇妙な出来事が増え、
ウォーカーは、知り合いに、ある不思議な人物を紹介され…。
ここからさらに不可思議度が増し、どんどん不気味なファンタジーの世界へ。
なにしろ、何じゃそりゃ?という展開が続くので、
なかなか、どういう物語なのか、分からない。
そして、なるほど、そういう話の流れか…と思う頃には、
日常に悪夢の世界が入り込んでいるのでした…。
個人的に、物語として好きなのは「月の骨」、
クライマックスに圧倒されて、ラストが好きなのが「死者の書」、
いちばん展開が読めないのが「炎の眠り」でした。
順番通りがおすすめ度:★★★
「月の骨」「炎の眠り」「空に浮かぶ子供」「犬博物館の外で」と続く、
ジョナサン・キャロルのダークファンタジー作品。
それぞれが、独立した物語ですが、
「炎の眠り」には、「月の骨」の映画監督と、
短編集「黒いカクテル」のラジオ番組の司会者が出てきます。
映画監督の会話の中で、「月の骨」のネタバレが一部入ってしまうので、
キャロル作品をどんどん読んでいきたい、という人は、
まず「月の骨」を読んだ方がいいです。
「空に浮かぶ子供」「犬博物館の外で」が未読で気になっていますが、
「死者の書」が面白かったので、ホラー作品も読みたい!
調べるほど謎が深まる、主人公の正体とは?
こう来るか!という予想外のラストが待つ、戦慄のダークファンタジー!