作者名:ジョナサン・キャロル 創元推理文庫
入り組んでいてせわしない。いつも飛び回っていて、その気になればいやというほど刺せる―“蜂の巣”。それが彼女の綽名。30年前に殺され、ぼくが死体を発見した美少女だ。彼女の事件を書くという試みに、作家であるぼくはスランプ脱出の望みをかけた。だが…真相を探るにつれ、絡みあい、もつれあう過去と現在、親と子、男と女。そしてぼくを脅し指図する謎の影。鬼才の傑作。
殺された美少女の謎を探る過程で、新たな事件が…
そして、サムを追い詰める存在とは?
ダークファンタジーのキャロルが描く、緊迫のミステリ。
キャロルの雰囲気はそのままにミステリ!度:★★★★★
ジョナサン・キャロルといえば、
「死者の書」「月の骨」「炎の眠り」といった、ダークファンタジーが有名。
過去の殺人事件を、取材しながら捜査する本作は、珍しいミステリ作品です。
有名作家ではあるけれど、3度の離婚を経験し、
現在はいまだかつてないスランプに陥っている、作家のサム・ベイヤー。
彼は、起死回生の一手として、
少年時代住んでいた町クレインズ・ヴューで遭遇した、ある事件について書こうと思い立ちます。
15歳のとき、彼は川で、少女の遺体を発見したことがあったのです。
殺された少女は、美しく賢いけれど、奔放で行動が読めず、
‟蜂の巣”などと呼ばれる、有名な子でした。
彼女を殺した犯人は捕まっていましたが、詳しく調べると不可解な点が…。
クレインズ・ヴューに戻り、旧友フラニー・マケイブととともに、
作品としてまとめるべく、取材と推理を続けます。
しかし、その途中、新たな殺人事件が起き、
サムを脅す謎の人物も出現。
さらに、サムが抱える問題も大きくなっていき…。
美しい文章からにじむ不気味さはそのままに、キャロルらしいミステリ作品になっています。
謎の女性に踊らされる度:★★★★
過去の殺人事件の真相、謎の脅迫者の影も気になりますが、
作中ハラハラさせる存在なのが、
サムの新しい恋人ヴェロニカ・レイク。
美人で、素晴らしい調査能力を持ち、魅力的な女性ですが、
意外な一面も持っていて、物語をよりスリリングにする存在。
それでもやはり魅力的な彼女の、本当の顔は何なのか、
サムとどうなっていくのかも、事件の真相と合わせて気になる部分です。
まとめて読むのがおすすめ度:★★★
物語の、メインの舞台となるのが、ニューヨーク州の町クレインズ・ヴュー。
この地名は、他の作品にも出てきます。
「蜂の巣にキス」「薪の結婚」「木でできた海」の3作を合わせて、
クレインズ・ヴュー3部作と呼ぶそう。
本作に登場する警察署長フラニー・マケイブは、「木でできた海」の主人公です。
この作品はミステリではなく、SF要素の強いファンタジー作品、といった感じ。
より変わった設定、先が読めない展開が好きな人におすすめです。
どっちから読んでも大丈夫ですが、
時系列順で言うと「蜂の巣にキス」から「木でできた海」なので、
読むならこの順番がおすすめ。
いつもの、日常からありえない世界へ、の流れはありませんが、
予想外の展開と、独特な不気味さは変わらず。
違う魅力を味わえる一冊になっています!