作者名:キャンデス・フレミング 創元推理文庫
「ねえ、わたしの話を聞いて…」偶然車に乗せた少女に導かれてマイクが足を踏み入れたのは、子どもだけが葬られている、忘れられた墓地。怯えるマイクの周辺に現れた子どもたちが、彼らの最期の物語を次々と語り始めた。廃病院に写真を撮りにいった少年が最後に見たものは。出来のいい姉に悪魔の鏡を覗くよう仕向けた妹の運命は。ノスタルジー漂うゴーストストーリーの傑作。
幼くして死んだ彼らの最後の物語は、どれも驚くべきもの!
9つ全ての物語が語り終えられたとき、迎える結末とは?
つぎつぎと秀逸なホラー短編が!度:★★★★
母親から、夜中の12時までに帰宅するようにと厳命されていたのに、
帰りが遅れそうになり、運転を急ぐ16歳のマイク。
慌てていたその時、夜道を歩く濡れた女の子を発見します。
彼女を家まで送ることにしたマイクですが、
この少女キャロルアンはどこかがおかしい。
実は彼女は56年前に死んでおり、マイクは幽霊に導かれ、
10代の少年少女ばかりが埋葬されている、墓地の一角に赴くのですが、
そこでは何人かの子どもの幽霊が待っており、自分たちがなぜ死ぬことになったのか、
最期の物語を聞いてほしい、というのです。
そして、ひとりひとり語っていくのですが、どの話も信じられないような展開を迎え、
悲しい物語ながら、ホラー短編として面白い!
恐ろしい人間が出てくる話、怪奇現象に巻き込まれる話、
因果応報な話、到底信じられない事件に遭遇してしまった話。
さまざまなゴーストストーリーが語られ、百物語的な面白さがありました。
子どもの話と侮るなかれ度:★★★★★
いくら死んでしまった話といえども、10代の子どもたちが語るもの。
大人のドロドロ愛憎劇やサイコな展開やらは、あまりなさそうだし、
そこまで怖かったり、とんでもなかったりではないんじゃ?
表紙イラストも不気味だけどちょっと可愛いいし…と考えて読み始めたら、
いい意味で裏切られました。
予想外の怪奇現象や恐ろしい描写、少年少女ならではの残酷な葛藤があり、
う~わ~といいたくなる話ばかり!怖面白い!
……子どもが死んじゃう話なので、あまり面白いを連発するのもアレですが、
そこはまあフィクションということで。
物語は、どれも語り手の子どもの名前が、タイトルになっています。
日常を盛り上げるために、つい嘘をついてしまうおおかみ少女「ジーナ」が、
転入生の少年に苦しめられる話から始まり、
2つ目の「ジョニー」は、葬儀屋での泥棒家業に手を染めてしまった不良少年の、
恐ろしい末路を描いています。
この話は、まさにホラー!という感じで、楽しめました。
廃墟となった精神病院に、写真を撮りに行った「スコット」の話は、定番ホラー。
4つ目の「デイヴィッド」は、妹が注文したあるものが原因で命を落とす話で、
SF要素もあって、個人的にいちばん予想外で面白かったです。
双子ながら、美しい姉とパッとしない妹が、シカゴ万博で悪魔の鏡と出会った結果、
悲劇が起きてしまう「エヴリン」は、人間のエゴと切なさを感じる話。
「リリー」では、ホラー定番のサルの手が登場!やっぱりろくなことにならない…。
「リッチ」では、意外なものによって、意外な場所に連れていかれる怒涛の展開が。
8つ目の「エドガー」が、ホラー度マックスのエピソードだと思います。
偏執的に一つのものにはまり込み、他のことが考えられなくなる‟没入”癖のある、
裕福な子どもが引き金になった、恐ろしい惨劇…
うぎゃーな展開でした。
最後の「トレイシー」も、トリを飾るインパクトがある作品!
展開が読めず楽しめました。
訳者あとがきいわく、彼らの話は、そのままシカゴの歴史になっているらしく、
そこも魅力的。
残酷さと悲しさだけではない度:★★★
お世辞にも性格がよくない子がいるし、
堂々と犯罪行為をしていた子もいるし、
逆にいい子で非がないのに、悲劇的な死を迎えてしまった子もいます。
どの話も残酷で、悲しい結末を迎えますが、しかし読後感は意外と悪くない…。
墓地で自分の物語を語り、他の子が語った内容に、共感を示したりする彼らが、
どこか魅力的で、哀しみながらも冷静に自身の死を語るからでしょうか。
そして全員の物語を聞き終えたマイクは、一体どうなってしまうのかも、
気になるところ。
ちょっとだけ読もうと思ったら、つい次の子の話も読んでしまう…。
止まらなくなる、怖面白い連作短編集です。