作者名:桜庭 一樹 角川文庫
「たいへん遺憾ながら、美しく生まれてしまった」川村七竈は、群がる男達を軽蔑し、鉄道模型と幼馴染みの雪風だけを友として孤高の青春を送っていた。だが、可愛そうな大人たちは彼女を放っておいてくれない。実父を名乗る東堂、芸能マネージャーの梅木、そして出奔を繰り返す母の優奈――誰もが七竈に、抱えきれない何かを置いてゆく。そんな中、雪風と七竈の間柄にも変化が――。雪の街旭川を舞台に繰り広げられる、痛切でやさしい愛の物語。
少年少女の心も、大人の心も、哀切に迫ってくる。
切なさと愛しさと痛みが感じられる、桜庭さんらしい作品です。
最初の一文から引き込まれる度:★★★★★
最初と最後に、オープニングとエピローグみたいな文章があって、
ほかは7話分の話が収録されています。
語り手は何回か変わるのですが(犬も語る。そして、この犬がいいキャラ)、
どの話も、最初の一文からインパクト大!
「辻斬りにように男遊びをしたいな、と思った」とか。
「たいへん遺憾ながら、美しく生まれてしまった」とか。
「川村家の二階は、やたら魑魅魍魎」とか…
一文目読んだら続きが気になる気になる。そして読みやすいから止まらない。
子どもから大人まで、複雑な想いを抱えた登場人物が語りだす、
1話ごとの余韻もすごいんです!
桜庭さんは、少女から成熟した大人まで、女性の心の揺れを描くのが素晴らしい…。
角川の桜庭一樹コレクションシリーズのなかで、いちばん大人向きの作品ではないでしょうか。
「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」はどの年齢層にもインパクト大の傑作ですが、
「赤×ピンク」「推定少女」なども合わせて、思春期の少女の心理を詳細に描いているので、
社会人の人生についても描く本作は、何となく大人が楽しめそうです。
本作が面白かった人は、その勢いで日本推理作家協会賞「赤朽葉家の伝説」や
直木賞「私の男」を読んでみてはいかがでしょう。
心にがつーんときます!
どの人物もおざなりにしない度:★★★★
地方の雪国で、目立つ美貌をもてあまし、
幼馴染と鉄道模型を愛しながら暮らす主人公・七竈。
彼女の今までの人生と現在の生活、そして起こり始めた変化を主軸に、
周囲にいる、いろいろなものを抱える大人たちの姿も描いた作品です。
七竈以外の語り手になる人物はもちろん、
七竈と雪風に執着する後輩の女子、母親の同僚教師、関係を持つ男性、祖父などなど、
登場するシーンは少ないのに、何かしら印象深い。
ひとりひとりに物語があるのを、何となく感じるのです。
どの登場人物も、丁寧に考えられて、七竈の町で生きているような…。
短い作品ですが、胸に残るどっしりした感じがあるのは、そのせいもあるのでしょうか。
静かな文章だけど迫ってくる、というのはすごい!
一気読みしちゃう度:★★★
止まらない。
一つ一つのエピソードが、3行くらい読むと、もう止まらない。
普段は、ミステリやSFが多くて、こういった人生や人間関係がメインの作品は、そんなに読みません。
桜庭さんは好きだし、角川の桜庭一樹コレクションシリーズの装丁は素敵なので、
つい買ってしまったという感じでした。
そして、読み始めたら、止まらない。
恐ろしき桜庭マジック。
他の本でも、だいたい同じ現象が起きてしまうという…。
「美しい」という呪いを受けた、七竈の選択とは。
美しく切ない人間ドラマが好きな人に、おすすめです。