【青春・SF】推定少女|冬の夜、突然逃亡者となった、巣籠カナ15歳。逃げ込んだダストシュートの中で、裸で凍っていた美少女・白雪を見つけたカナは、2人で東京へ向かうが…。銃を持ち、記憶喪失の白雪は、いったい何者なのか?3パターンのエンディングが用意された、桜庭一樹、初期の傑作!

作者名:桜庭 一樹   角川文庫

とある事情から逃亡者となった“ぼく”こと巣篭カナは、逃げ込んだダストシュートの中で全裸の美少女・白雪を発見する。黒く大きな銃を持ち、記憶喪失を自称する白雪と、疑いつつも彼女に惹かれるカナ。2人は街を抜け出し、東京・秋葉原を目指すが…直木賞作家のブレイク前夜に書かれた、清冽でファニーな成長小説。幻の未公開エンディング2本を同時収録。

大人にも、女にもなりきれない。

何をしたいのかもわからず、漠然と思う「あまり頑張らずに生きていきたいなぁ。」

そんな少女の現実的な悩みは、非現実的な逃走劇の中で叫ばれる。

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リアルな悩みと、奇妙な冒険度:★★★★★

主人公・巣籠カナは、関東の田舎に、母と義父と暮らす中学3年生。

一人称が「ぼく」で、男子とも女子とも喋り、

ゲームが好きな、今時ながらも、どこが無気力感が漂う少女。

とくにはっきりとした目標のない彼女は、漠然とした焦りを抱えた、

どこにでもいる、普通の女の子だったのですが、

学校の裏山に、未確認飛行物体が堕ちたというニュースがあった冬の夜、

突然起きた出来事により、逃亡者となってしまうのです。

混乱状態で街中を走ったカナは、隠れたいと開けたダストシュートの中で、

全裸で凍った状態で、銃を抱えて眠る美少女を発見!

目覚めた彼女は氷を溶かし、怪力で電柱を揺らし、

自分のことも銃のことも何も覚えておらず、‟記憶喪失系”の少女だと言う…。

この摩訶不思議な存在と出会ったカナは、彼女に「白雪」と命名し、

マイペースな白雪に引っ張られて、東京に2人で逃走します。

ときどき視界に入る黒服の男たち、白雪を見て謎の言葉をつぶやく店員、

裏山に落ちたUFOの噂、山の中の精神病院、その日起きていたある事件…。

リアルな悩みを抱えた少女カナは、

とてもリアルとは思えない、謎だらけの少女・白雪と、

時に楽しく、ときに号泣しながら、必死の逃走劇に挑むのでした。

この、リアルな部分と、非現実的な部分の融合が素晴らしい、

異色の青春小説です。

カナの叫びの切実度:★★★★

カナは、義理の父と暮らしており、何となく苦手に思っています。

学校では、特に勉強にも部活にも燃えているわけではなさそうですが、

友達と、比較的まったりとした学校生活を送っており、

恋の悩みも今のところ、なし。

高校どこに行こうとか、あまり義父と関わりたくないな、という悩みがありますが、

切実に追い詰められている、というほどではない様子です。

しかし突如、人生が一変するような出来事に見舞われ、

謎の少女と、おかしな逃走をする羽目になったことで、

彼女が抱えていた、どうしようもない思いが叫ばれ…。

人生の分岐点に立ち迷う、少女たちを描いた青春小説ですが、

彼女の悩み、抱えていた思いに、

ハッとするのは大人もなんじゃないか、と感じました。

本作や、「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」、「赤×ピンク」、

「少女七竈と七人の可愛そうな大人」といった桜庭青春小説は、

大人の心も貫く作品なので、たまに読み返してはハッとしてしまいます。

3つのエンディングに大満足!度:★★★

Vol.1~Vol.7まで語られた後、

EndingⅠ「放浪」・Ⅱ「戦場」・Ⅲ「安全装置」の、

3つのエンディングが用意されている、という変わった構成の作品です。

この3つのエンディングが、全部いい!

全部読むことによって、こんな物語だったんだな、というのがより分かるし、

最も気に入ったエンディングを、

自分で勝手にこれ!と決めちゃえる楽しみが…。

個人的には「戦場」が好きですが、「安全装置」も捨てがたいです。

「放浪」こそが好き!という人も多かろうし…。

まぁ、要するに全部良かった、ということです。

「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」「少女には向かない職業」が好きな人は、ぜひ!

桜庭一樹、最初の一冊にもおすすめです。

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