作者名:パトリシア・ハイスミス 河出文庫
クリスマス商戦のさ中、デパートのおもちゃ売り場でアルバイトをする十九歳の女性テレーズは、美しい人妻と出会う。彼女の名はキャロル。テレーズは恋に近い気持ちを胸に、キャロルに誘われ自動車旅行へ。二人を待つ運命を、彼女たちはまだ知らない…サスペンスの巨匠ハイスミスが匿名で出した幻の恋愛小説、待望の本邦初訳。
キャロルとテレーズ、心に孤独を抱える2人の女性。
紆余曲折の末、2人がどうなってしまうかというと…?
こういう運命の出会いも…?度:★★★★
主人公は、19歳の女性・テレーズ。
魅力的ですが、複雑な家庭環境と繊細な感性のためか、
不安定な心を抱える、悩み多き人。
舞台美術の仕事を望み、セットの模型作りに励みますが、
まだチャンスはつかめておらず、クリスマスシーズンのフランケンバーグ・デパートで、
おもちゃ売り場のアルバイトをすることに。
そこで、美しい金髪の人妻・キャロルに出会ったことで、
彼女の運命は大きく変わります。
恋人のリチャードを心から愛することが出来ず、悩んでいるときに、
一目キャロルを見ただけで、激しい感情に晒されてしまったテレーズ。
裕福で気さくで、どこかミステリアスなキャロルに、
どんどん惹かれていきます。
しかし、自信に満ちているように見えるキャロルにも、大きな悩みがあり、
2人の女性は、気分転換の自動車旅行に出かけるのですが…。
この旅が、2人の人生を大きく変えることに、なってしまうのです。
美しい女性、豪華な邸宅、車でアメリカを行く爽快な旅、
といった素敵な描写も多いですが、
読んでいて落ち着かない、不穏な部分もたくさんあって、
サスペンスミステリ並みに、ハラハラしちゃう恋愛小説でした。
テレーズの不安定と、キャロルの謎度:★★★★★
女性同士の恋愛を扱った作品ですが、生々しい描写は少なく、
テレーズの心の動きと、2人のやり取りが、
上品な文章で、しっかりと綴られていきます。
主人公のテレーズは、複雑な生い立ちで、
繊細な感受性を持ち、頼れる人間が少ない、不安定な女性。
自分が本当は何を求めているのかも、はっきりと分かっていない、そんな彼女が、
キャロルと出会い、どう変わっていくのか、気になるところ。
対して、優雅で余裕があるキャロルに、
何があって何を抱えているのかも、徐々に明らかになっていき、
謎めく彼女の本当の姿が見えてくるにつれ、
物語も意外な展開を迎えていきます。
やっぱり心臓に悪い度:★★★
偶然出会ってしまったことにより、
交換殺人を犯すことになってしまう、2人の男を描いた「見知らぬ乗客」。
富豪の息子に成り代わる計画を立てる、貧しい青年リプリーの物語「太陽がいっぱい」。
心臓に悪い、クライムサスペンスが有名ですが、
本作も、別の意味で心臓に悪かったです。
キャロルとテレーズの関係はどうなるのか、
リチャードとはどうなってしまうのか、
舞台美術家への道は開かれるのか…などなど、
一体どうなってしまうのかな?という部分が多く、読んでいてソワソワしてしまう…。
第2部は、さらにドキドキしました。
丁寧に心の動きを綴る、スリリングな恋愛小説。
2人を待つ予想外の結末まで、ハラハラし通しです。