作者名:パトリシア・ハイスミス 河出文庫
新鋭の建築家ガイは不貞の妻を憎み、富豪の息子ブルーノは父を憎んでいた。二人が列車内で偶然知り合って語らう中、ブルーノは衝撃の提案をする。「ぼくはあなたの奥さんを殺し、あなたはぼくの親父を殺す」当然ガイは断るが、すでに二人は運命のレールの上にいた…ハイスミスを一躍人気作家にした第一長編、新訳決定版。
不安定な心が絡み合う、緊張のサスペンス!
不可解で悲しい執着の果てに、2人に訪れる結末とは…。
「太陽がいっぱい」の作者、パトリシア・ハイスミスの第1長編!
完全犯罪?度:★★★
列車での移動中、偶然出会った2人の男性。
建築家・ガイは、裕福な青年・ブルーノと話すうちに、
不貞を働いた妻と離婚をしたい、といったプライベートな話をしてしまいます。
何故か、ガイがやたらと気に入ってしまったブルーノは、
急にとんでもないことを提案。
いわく、「僕があなたの奥さんを殺しますから、あなたは僕の父を殺してください!」と。
ガイは、まともに取り合わず、ブルーノと会ったことも忘れようとしますが、
ブルーノは、その後もこの計画の完璧さを考え、
勝手に実行してしまうのです!
そこからガイの人生は、ブルーノという闖入者によって、大きく変化せざるを得なくなり、
2人の男は、どんどん深みへ…。
確かに、全くの他人だから、この列車での邂逅以降、
決して会わず、極力連絡もしないようにすれば、完全犯罪かもしれません。
ただ、そう上手くはいかないんです…。
序盤から分かってしまいますが、このブルーノ、深刻なアルコール依存症で、子どもっぽく、
自分をコントロールできない人間なんですね。
ガイはガイで、不安定になっていくし、手強い敵も登場。
またやらかした、またやらかした…と本当に心臓に悪い作品でした!
いびつで不安定度:★★★★★
ガイは、大切な女性がいて、ブルーノには複雑な感情を抱きますが、
ブルーノは、どういうわけか、ガイに喜んでほしくて仕方がない。
ガイも、完全にブルーノを拒否することが、なかなか出来ない。
2人の結びつきは、とても奇妙で危険をはらんだ、いびつなもの。
この2人の歪んだ執着と、おのおのの事情で加速する不安定さが、
丁寧にスリリングに描かれています。
ときにどうしようもなく情緒不安定になり、ときにしびれるような幸福を感じる、
揺れ動く男たちの心理が、読者に迫る…!
罪を犯してしまった人間の、迷走と心情を生々しく描くミステリサスペンスなのです。
ブルーノへの感情と、罪の意識に悩むガイのパートも読むのが止まりませんが、
どんどん、あらゆる面で悪化していく、破滅的な人間であるブルーノのパートが、
もう、怖いもの見たさで早く読みたくて!
謎の執着度:★★★★
よく分からないのは、ブルーノの、ガイに対する執着。
一度会っただけなのに、異常なまでの好感を抱き、ガイに評価されたくてたまりません。
父に対する嫌悪と、母への過剰とも思える愛情、
何かとうまくいかない自分の人生、未成熟な精神…。
こういった要素を持っていて、悶々としているときに出会ってしまっただけとも見えますが、
読み進めていくと、う~ん、やはり何だかはっきりとは分からないけれど、
この2人だから、2人が出会ってしまったから、
こんな事態になってしまったのではないかと思えてきました。
「出会ってはいけなかった2人」というフレーズが、こんなにピッタリはまる作品は、
そうそうないかもしれません。
ガイとブルーノ、2人がどういう人間なのか、なぜこんな心境になったのか、
考えてみるのも面白いかも。
サスペンスの巨匠の、不朽の名作!
最初から最後まで、とにかくハラハラしたい人におすすめです。