作者名:恒川 光太郎 角川ホラー文庫
からくも一家心中の運命から逃れた少年・タカシ。辿りついた南の島は、不思議で満ちあふれていた。野原で半分植物のような姿になってまどろみつづける元海賊。果実のような頭部を持つ人間が住む町。十字路にたつピンクの廟に祀られた魔神に、呪われた少年。魔法が当たり前に存在する土地でタカシが目にしたものは―。時間と空間を軽々と飛び越え、変幻自在の文体で語られる色鮮やかな悪夢の世界。
ホラーなのか、ファンタジーなのか、幻想小説なのか…。
絶妙な配合で、何とも言えない余韻をもたらす、摩訶不思議な物語たち!
色々な持ち味度:★★★★★
角川ホラー文庫の中でも、恒川作品は、一概にホラーと言っていいものか…。
いつも迷います。
ホラーですがファンタジーでもあり、ときにSFやロードノベルの要素も入るのが特徴で、
予想外の結末に連れ去られる感覚を、楽しめる作家さん!
本作は、ホラーファンタジーで、幻想的かつ人生という旅を感じさせる作品です。
南の島を舞台にした、7つの物語が収録されていますが、
それぞれの物語の雰囲気をざっくりまとめると、
切なく温かい→神秘的でハラハラ→ほっこり→壮大で不思議→
不穏でドロドロ→残酷で優しい→奇妙な悪夢…という感じ。
切ないけれどどこか優しさを感じる話と、神秘的で残酷な話が、
かわるがわる描かれており、しかし幻想的な美しさは共通です。
全ての話が印象深く、この作品にのめり込んでしまって、
すべて読み終わったときは、思わずほ~…っと何だか酔いしれてしまい脱力…。
なかなか味わえない、何とも言えない素敵な余韻です。
世界観に酔うのが楽しい小説!
ちょっと恐ろしいけれど、この島に住んでみてもいいかな、なんて思ってしまったり(笑)
ほっこり感と神秘性度:★★★
1つ目の「南の子供が夜いくところ」は、一家心中寸前に、
謎の美女・ユナに救われた少年・タカシが、南国トロンバス島で暮らすことになる話です。
緊迫した状況から一転、穏やかな島に移り、そこで体験する不思議な体験は、魔法めいていて好き。
2つ目「紫焔樹の島」は、ユナの過去の話で、いちばんハラハラしました!
精霊の神秘とか、逆らえない運命とか、もろもろ描かれた悲しく壮大な話で面白かったです。
3つ目「十字路のピンクの廟」は一転、少し怖いけれど、ほっこり可愛い。
作家の手記と住民のインタビューからなる構成で、変化球でいい感じ。
4つ目「雲の眠る海」は、またまた壮大な話。
何だか読んだ後に、やたら切なくなって、しんみりしちゃいました。
5つ目「蛸漁師」で、急にサスペンス!
息子の死の真相を探ろうとした父親が、意外なものを発見し…?
今回は出ないのかな?と思ったんですけど、
やはり恒川作品、嫌な人間は欠かせないようです。出ました!
6つ目「まどろみのティユルさん」は、壮大かつ不思議で、どこか優しい物語。
昔の海賊のティユルさん、なぜか半分植物化してまどろんでいらっしゃる。彼の過去とは?
奇妙キテレツ海賊一代記のラストは、とっても好き。
最後の「夜の果樹園」が、これまたラストにインパクトのあるのが来た~と思いました!
タカシの父が、バスを間違えてたどり着いたのは、
フルーツの頭部をもつ人間たちが暮らす変な町で、悪夢の迷宮的展開は、
ただ怖いだけではない、不思議な魅力に満ちています。
とにかく読んでほしい!度:★★★★
ここまで書いておいてなんですが、この作品について言いたいのは、
「何とも言えない魅力で、何とも言えず好きで、何とも言えない読後感を残す」ので、
ぜひ、読んで確かめていただきたいということ。
恒川作品は、「波長が合う人をがっちり捕まえて離さない魅力」というのか、
おどろおどろしいホラーではないし、楽しいファンタジーでもなく、
スッキリ解決するミステリとは違うし、ただただ美しい幻想譚とも言えない、
魅力を文章にするのが、難しい小説ぞろい。
「どこかへ連れ去られるような物語」とよく表現されていますが、
結局その表現が、いちばんしっくりくる気がします。
「島」の不思議と神秘に満ちた魅力を味わえる、素敵な連作短編集!
夏の夜に、しっとり味わいたい…そんな作品です。