作者名:深緑 野分 創元推理文庫
合衆国陸軍の特技兵(コツク)、19歳のティムはノルマンディー降下作戦で初陣を果たす。軍隊では軽んじられがちなコックの仕事は、戦闘に参加しながら炊事をこなすというハードなものだった。個性豊かな仲間たちと支え合いながら、ティムは戦地で見つけたささやかな謎を解き明かすことを心の慰めとするが。戦場という非日常における「日常の謎」を描き読書人の絶賛を浴びた著者の初長編。
凄惨な戦争。ままならない食材。
若者たちの、生き残るための気晴らし、それは推理!
思ってたのと違う度:★★★
紹介文を読んだときは、炊事担当のコック兵が、
戦場で仕事をすることの大変さを感じながら、
宿営地で起きる不思議な事件を解決する…そんな話かと思っていました。
読んだら、全然違う!
コック兵、戦闘しますね!炊事だけじゃダメだった。
戦地や軍隊生活の描写が、細かく生々しく、緊迫感があって恐ろしいです。
この極限状態を乗り切るのに、気をそらそうとして、
ささやかな謎を解く兵士の話でした。
謎はささやかでも、真相や結末は、苦く悲しく…。
「戦場で生まれてしまった、切なく悲しい事件」を、苦しみながら、
でも友情を深めながら解決していく、という作品でした。
戦場で主人公・ティムと仲間たちが出会うのは、5つの謎。
第1章「ノルマンディー降下作戦」では、
仲間の一人がなぜかパラシュートを集める行動をとります。
彼の目的がなんとも意外で、全然真相が分かりませんでした。
まさに‟戦場という非日常での日常の謎”という言い方がぴったりで、面白かったです。
第2章「軍隊は胃袋で行進する」では、
‟粉末卵”という栄養たっぷりの食材の盗難事件が発生。
しかしこの粉末卵、兵士のほぼ全員が出来れば食べたくないと強く思うほど、激マズ!
そんなものがなぜ盗まれたのか…意外な理由と兵士たちの苦悩が心に迫る話です。
第3章「ミソサザイと鷲」では、オランダで夫婦の怪死事件に遭遇することに。
この辺りから、より戦争の恐ろしさが描写されるようになり、
第4章の、塹壕戦の最中に聞こえる、
謎の音に秘められた真実が暴かれる「幽霊たち」で、
ティムたちにとって、決定的な事件が起きてしまいます。
そして第5章「戦いの終わり」では、
ティムの最初で最後の賭けとなる謎解きと戦いが…!
後半になるほど、事件も真相も深刻なものになっていくのですが、
それでも必死で頑張る青年たちから目が離せず…苦しいシーンも多いですが、
ラストの感動と、読後の余韻がすごいです。
デビュー短編集から、一気に重厚な作品にいったなぁ~とびっくり…
ポテンシャルが素晴らしい作家さん!
謎と戦場と友人と…度:★★★★★
コックたち、というのが押し出されているので、読む前は意識しなかったんですけど…
ミステリ、かつ戦争小説なんですよね。
全体に容赦ない、戦闘の描写がありますし、仲間が失われます。
でも、苦しいだけではないから、読み進めてしまう。
戦闘描写の合間に、悩む若者たちが心を通わせる会話、
不思議な謎と意外な真相があります。
戦争+友情+謎解き、この3つが合わさっているので、
重苦しくても最後まで止まらなくなり、
クライマックスは、主人公を応援したくなり、ラストに涙!です。
感動のラスト度:★★★★
食べることが好きな、平凡な青年・ティム(キッド)。
推理力抜群のエド、美男子で気のいいライナス、皮肉屋のスパーク、
作家志望のワインバーガー、よくしゃべるオハラ。
おのおの個性的ですけれど、悲しくなるくらい普通の好青年たち…。
かれらの掛け合いを聞いているうちに、誰も欠けてほしくないなと本当に思います。
第4章で、うえええ~という展開になるんですけど、踏ん張って男を見せるキッド!
第5章のラストでうるっときて、でも耐えた!と思ったら、
エピローグにやられました…。もう無理だ、泣いた!
この終わり方は、すごい好きです!
平和に、好きなものを食べられるって、幸せだと痛感します。
とにかく、粉末卵とやらは食べたくない!