
作者名:佐藤 究(きわむ) 講談社文庫
二〇二六年、京都で大暴動が起きる。京都暴動―人種国籍を超えて目の前の他人を襲う悪夢。原因はウイルス、化学物質、テロでもなく、一頭のチンパンジーだった。未知の災厄に立ち向かう霊長類研究者・鈴木望が見た真実とは…。吉川英治文学新人賞・大藪春彦賞、ダブル受賞の超弩級エンタメ小説!
人類と類人猿だけが獲得した能力に、隠された進化の秘密!
真実に手が届きそうになったその時、あるアクシデントから、未曽有の危機が…。
主人公が導き出した衝撃の結論に、興奮必至です!
主人公の持論が面白すぎる度:★★★★★
主人公・鈴木望は、霊長類研究者の若い男性。
その斬新な持論が、巨額の資産を持つIT企業のCEOで、
自らも素晴らしいAI研究家であるダニエルの目に留まり、
彼の出資で、最先端の霊長類研究センターが京都に造られました。
望はそこの責任者となり、日々チンパンジーの研究をしていたのですが、
実は、他の研究員に内緒で、彼の持論を証明する新しい実験を行っています。
そこに、ウガンダで保護された、喉にけがをしているチンパンジーが引き取られたのですが、
このチンパンジー・アンクが、とんでもない頭脳の持ち主と判明!
研究が一気に進む!と勢い込んだ矢先、ある事故が勃発して、理解不能の大惨事が起きてしまいます。
それは、アンクと一緒にいた人々が、突然凶暴化して、一切手加減なしで殺し合うという事態!
さらに、逃げ出したアンクの行く先々で、人々が身内だろうと殺し合い、京都は大混乱に。
いち早く、アンクに原因があると気づいた望は、
後半はサイエンス・ライターのケイティと、少年シャガの協力を得て、
必死にアンクの行方を追いながら、自分の中で事態を推理していきます。
その結果…我々のDNAに刻み込まれた、とんでもない秘密に気づくことに!
もう本当に、すさまじいスケールの話になるし、説得力がすごいんです。
まあまあボリュームのある本なんですけど、とにかく止まらなくなるので、
時間を確保してから読んだ方がいいかも。
悲劇の規模に唖然度:★★★★
アンクが逃げ出してからは、彼のいく先々で、ひたすら暴動が起きます。
もう…すさまじい暴動の描写。
理性を完全に失い、獣のように殺し合う人間の姿に慄然とします。
そしてこの悲劇は、いろいろと不幸な要因が重なったものであり、
う~ん、被害拡大がやりきれない…それでも読むのが止まらないですけど(汗)
紹介にも書いてありますが、アンクがウイルスを持ち込んだとか、そういう話ではないんです。
住民が突然暴れて死んでしまうというと、テロやウイルス、化学兵器や未知の生命体、
そういったものが書かれる作品が多いですが、
この作品は、悲劇の原因の斬新さと、謎解きの興奮が群を抜いている感じ。
ミステリ・SF好きともに、とても楽しんでもらえるかと。
これはもはや論文度:★★★★
原因不明の暴動を描いた、アクションエンタメ小説ですが、
同時に、すごく興味深くて面白い論文を読んでいるかのような感覚に陥ります。
遺伝子とか霊長類研究とか、難しそうな分野について語られますが、
噛み砕いてあるので分かりやすい!
途中、神話を例に出してあったり、「あ~、なるほど」と読者が納得できるように、
構成が考え抜かれているみたい。
そのうえ、望とダニエル、ケイティという、3人のメインとなる登場人物の、
その特殊な人生を決定づけた、印象的なエピソードをしっかり描き、
物語に感情移入させることも忘れていません。
人物造形にも、この作品ならではの伏線があり、繋がりが分かったときは興奮しちゃいました。
江戸川乱歩賞を受賞した「QJKJQ」も、面白くて好きですけど、
作品のクオリティが上だと感じるのは、本作の方です。
容赦ない衝撃作つづきで、今後の作品も楽しみ~。
ただのパニック小説ではない、壮大な物語は圧巻!
驚きの読書体験になること確実の、まさに超弩級エンタメ作品です!