作者名:桜庭 一樹 角川文庫
その日、兄とあたしは、必死に山を登っていた。見つけたくない「あるもの」を見つけてしまうために。あたし=中学生の山田なぎさは、子供という境遇に絶望し、一刻も早く社会に出て、お金という“実弾”を手にするべく、自衛官を志望していた。そんななぎさに、都会からの転校生、海野藻屑は何かと絡んでくる。嘘つきで残酷だが、どこか魅力的な藻屑となぎさは徐々に親しくなっていく。だが、藻屑は日夜、父からの暴力に曝されており、ある日――直木賞作家がおくる、切実な痛みに満ちた青春文学。
残酷で、切なく悲しく、美しい。
この読後感は何なのか…初期の代表的傑作!
いつまでもインパクト度:★★★★★
購入して数年がたち、何回か読みなおし、
漫画のほうも読んでみたりしたんですけど、
もう何回目でも衝撃的!
読むたびにうるっときて、胸に迫ってくる、すごい作品だと思います。
けっして長い作品ではないのに、
すべてのシーンが過不足なく語られているように感じて、
完成された作品だと、読むたびに感心。
桜庭さんの作品のなかでも、1・2を争うくらい好き…。
漫画も、2人のイメージがぴったりで良かったです。
子どもの絶望度:★★★★★
家庭の事情で、高校に行かずに自衛隊に入ろうと考えている、なぎさ。
有名人の父親に虐待されている、自分を人魚と言い張る女の子、藻屑。
なぎさが生きるために撃ちたいのは、実弾。
藻屑が生きるために撃っているのが、不可思議な言動、それは砂糖菓子の弾丸。
子どもの不安定な戦い方を、よくこんな風に表現できるなぁ…と思います。
最初に明示されているので、彼女たちの状況は絶望的で、
結末は悲劇的なのがわかるんです。
でも実際に読んでいくと、全然わかってなかったんだな、と思い知ることに。
読後に待っているのは、悲しみだけではないんですけど、
こればっかりは、説明できないので…ぜひ読んで体験してください~。
失うばかりではない度:★★★★
藻屑の状況が、より危機的なんですが、語り手のなぎさも大変苦労性。
10年前に父が死亡し、3年前から兄が、
引きこもって‟現代の貴族”になってしまいます。
兄は変わらず美しく、会話もするけれども、
昔自分を助けてくれていた兄ではない。
冒頭の新聞記事の抜粋で、なぎさが藻屑の死体を見つけるのは明らかにされます。
ただでさえ追い詰められているのに、
次第に大切に思うようになった藻屑を失うなぎさ。
ここまで悲劇的要素がそろっているのに、
悲しいだけの物語では終わらないところが、傑作だと思います!
苦しいけれど、読むのがやめられない。
ぜひとも読んでほしい、衝撃作!