作者名:西澤 保彦 講談社文庫
どうしても殺人が防げない!? 不思議な時間の「反復落し穴」で、甦る度に、また殺されてしまう、渕上零治郎老人――。「落し穴」を唯一人認識できる孫の久太郎少年は、祖父を救うためにあらゆる手を尽くす。孤軍奮闘の末、少年探偵が思いついた解決策とは! 時空の不条理を核にした、本格長編パズラー。
同じ日を9日間繰り返す少年は、祖父を救えるのか?
斬新な設定で細部まで計算された、傑作ミステリです!
発想が素晴らしい度:★★★★
ある日突然、同じ日が繰り返される現象に巻き込まれてしまう少年・久太郎(ひさたろう)。
反復されるのは9日間で、この9日目に起きたことが、
‟決定版”になり、10日目からは次の日になるのです。
久太郎の祖父は莫大な財産を持っていて、親族は何とか遺産を受け取れないかと画策。
正月に話し合おうと集まるのですが…。
久太郎は、前代未聞の状況に陥ります。
1週目で無事だった祖父が、2週目で死んでしまうのです!
反復される日は、同じことが起こるはずなのに、なぜ?
祖父が死なないようにと行動すると、予期せぬ事態になって、3週目も4週目も大混乱に。
こっちの危険を回避したと思ったら、今度はあっちであらららら…。
久太郎少年の、涙ぐましい努力が止まらない!
SF要素の強い設定が生かされていて、魅力的なミステリです。
癖のあるキャラクター度:★★★
何回も、同じ日をループするというのは、悪夢的状況ですよね。
北村薫さんの「ターン」に、少しだけ似ています。
(女性が事故の後、同じ日を繰り返すようになってしまい、何とか脱出しようとする話。
謎と幻想に満ちた雰囲気が素敵)
ただ、久太郎のループは体質(?)で、9日間繰り返したら次の日に移行すると分かっているし、
親族のキャラが強烈すぎて、コミカルな印象なので、
恐るべきSF的状況という雰囲気ではないですね。
そう、集まる親族たちは、みんな我が強い…。
かくいう久太郎も、能力のせいで(同い年の子より、体感的には長く生きているから…)
周りに、「年のわりには老け…落ち着いているよね」と評される性格。
親族たちは、遺産を受け取りたいがゆえに、好きな人といたいがために、
あるいはヒステリーを起こしちゃって暴走。
みなさん、何週目でもやらかしてくれます。
事態を収拾しようとする久太郎の、苦労が半端ないです。
前の週と同じ轍を踏まないようにするのに、今度はあの人が!という状況。
これを9回か。大変…。
驚きの解決編度:★★★★★
最終週前の8週目で、驚きの事実が明らかになります。
9週目で頑張った!と思ったら…まだまだ驚愕の事実が!
なぜ1週目と2週目で、違うことが起きたのか?
それを説明すると生じる矛盾を、解決する方法は?
意外な人が、鮮やかな推理を開陳。
最後まで読むと、細かい設定まで、よく考えられていたことに驚きます。
短期間のタイムループSF、殺人事件のミステリ、家族のドタバタ騒動劇、
男女泥沼試合、ちょっとロマンス、事態を変える挑戦…
てんてこまいの状況で頑張る、久太郎。
後半を読むころには、これが終わったら、しばらくゆっくりしなよ~と言ってあげたくなります!
解決編を読む前に、事態を説明出来たらすごい!
特殊設定が活きる、秀逸なミステリです。