作者名:連城 三紀彦 宝島社文庫
脅迫電話に呼び出された医師とその娘婿が、白衣を着せられ、首に針金を巻きつけられた奇妙な姿で遺体となって発見された。なぜこんな姿で殺されたのか、犯人の目的は一体何なのか…?深い情念と、超絶技巧。意外な真相が胸を打つ、サスペンス・ミステリーの傑作9編を収録。『このミステリーがすごい!2014年版』の「復刊希望!幻の名作ベストテン」にて1位に輝いた、幻の名作がついに復刊!
どの短編も、驚きの完成度!
ミステリファンを満足させるクオリティの短編集です。
レベルの高さに驚愕度:★★★★★
とにかく、収録されている9つのサスペンス・ミステリの、
どれもがレベルが高い、傑作短編集でした!
ときには犯人目線で、ときには巻き込まれた者の目線で、
親子の、男女の、愛憎が絡み合った末の犯罪が描かれています。
「夜よ鼠たちのために」は、表題作だけあって、
この本の中でも、やはり1・2を争うインパクトと意外な真相のミステリ。
権威のある医師2人が、白衣を着せられ、首に針金がまかれた状態で、
殺害されるという恐ろしい事件。
何らかの医療ミスによって、脅されていたようですが…。
冒頭から、深く暗い情念を感じさせる犯人の独白で、
おぞましい真相が待っているだろうな、とは思ったんですけど、
予想を超えていました!
ミステリ史上、かなりおぞましい動機なんじゃ…。
おぞましさと悲しさと意外性で、忘れられないインパクトがある作品です。
1つ1つが濃厚なミステリ度:★★★★
表題作以外も、緻密に考え抜かれた短編ばかり。
どの作品も、50ページくらいのボリュームなんですが、
何だかもっと読んだ気がするくらい、とにかく濃厚なミステリ!
「二つの顔」では、自宅で妻を殺害したはずなのに、
ホテルで奥さんが殺されている、との連絡が警察から入り、
犯人の夫が混乱します。
しかも同じ殺され方で、妻の指輪も2つあり…読者も大混乱。
狂気の悪夢的展開の末に、なるほどね~となる真相が待っています。
「過去からの声」は、幼児誘拐事件から1年たち、警察を辞めた若い刑事が、
彼だけが気づいた真相を語る話。
意外な真相と、登場人物の心理描写が冴える作品でした。
エゴと犯罪を描く巧みさ度:★★★★
犯行を行おうとするもの目線、という作品も多く、
人間の醜い心情がしっかりと描かれた、ドロドロ愛憎劇がたっぷり。
「奇妙な依頼」では、妻の不倫について調べてくれ、
と依頼された興信所スタッフの男が、
妻に尾行がばれ、逆に妻に依頼を受けます。
さらに夫にも失敗がばれ、夫からもまた依頼され…という状態に。
そんな中、ある勘違いから、男と関係のあった女性が殺されてしまうのですが…。
奇妙な依頼の真相は、実に奇妙なものだった!という話です。
「二重生活」では、夫と妻、それぞれの不倫相手が、
泥仕合の末に、最悪の結末に向かって、ひた走る話ですが、
よくあるサスペンスかと思いきや、とんでもないラストが!
「代役」では、人気俳優が、関係が冷え切った妻を殺害しようと、
自分そっくりの男を利用するのですが、
クライマックスに一気に明らかにされる真相の、手の込み方がすごい!
あれもこれも伏線だったのか…と愕然。
どれも、登場人物のエゴと憎しみが伝わってきて、うわ~と思うのですが、
自分の予想の斜め上を行く真相が、待っているのが分かるので、
ドキドキして、読むのが止まらないです。
個人的に、「夜よ鼠たちのために」「奇妙な依頼」「二重生活」「代役」が、
特にええ~⁉となりましたが、他の短編も面白いです本当に。
まさに超絶技巧の、最後のひねりが素晴らしい短編揃いです。
ミステリ好きは、ぜひぜひお読みください!