作者名:高山 羽根子 創元SF文庫
犬そっくりの生き物を育てる三人姉妹の人生をユーモラスに描き、第1回創元SF短編賞佳作となった表題作、郊外のぼろアパートで暮らす人々の可笑しな日常「シキ零レイ零 ミドリ荘」、15人姉妹の家が建つ孤島をある日見舞った異常事態「母のいる島」、ねぶたの街・青森を舞台に時を超えて紡がれる幻想譚「巨きなものの還る場所」など、全5編を収録。第36回日本SF大賞候補作。
シュール路線を突っ走る、妙に印象に残る物語たち!
「な~んだそりゃ」といいつつ、結構好き…!
まったりゆるく異常事態度:★★★★★
5つの話すべて、謎の部分があり、一読してすんなり入ってくる内容ではないです。
ただ共通して言えるのは、‟何だかシュールでゆるくて好きになっちゃうかも?”という、
不可解な魅力があるということ。
とくに、3つ目までの話は、脱力系と言えばいいのか、
‟何か○○なんだけど、結局面白くて好きよ”みたいな…
このふわふわしたとらえどころのない魅力、ぜひ味わってみてください。
最初に収録されている表題作「うどん キツネつきの」に至っては、
最初の一行「今、あのゴリラ啼かなかった?」という珍妙な台詞から始まりますし、
第1回創元SF短編賞佳作に選ばれただけあって、インパクトと個性がすごい!
三姉妹が、犬みたいな生き物・うどんを拾うことから始まる物語ですが、
うどんの描写より、ちょっと変わった三姉妹の日常と月日の流れを中心に描く、
ところどころ笑える、ほっこりストーリーです。
しかし、ラストにSFが駆け込んできて、読後感が…表現しづらいな~(汗)
いちばん好きなのが、3つ目の「母のいる島」。
16人目(⁉)の子どもの出産で、危険な状態にある母を心配しつつも、
島で個性的な生活を送る、15人姉妹。
彼女たちの賑やかな会話を楽しんでいたら、島に怪しい男の影が見え始め、
ついに姉妹に牙をむくのです!…が、ここからが驚きの展開。
人数以外のことでも、ぶっ飛んでいる姉妹と、テンポのいい展開、
最後に明かされる母の秘密と、家族の絆が相まって、
とても印象に残る作品になっていました!
言葉の使い方が面白い!度:★★★★
言葉の使い方が面白い作品集でした。
特に際立っているのが、2つ目の「シキ零レイ零 ミドリ荘」。
敷金0礼金0の、かなりおんぼろなアパート・ミドリ荘の奇妙な住民たちの、
可笑しな生活を、冷静な女の子・ミドリの目線で語る、
最もコメディ色の強い作品です。
入居する外国人の片言な日本語よりもおかしいのが、
ネット環境整っていないし、ほとんど引きこもりなのに、
なぜか通販で必要物資をゲットする男性・エノキ氏の発言。
なんと、顔文字でしゃべる!斬新…斬新すぎる…!
しかも、これが妙にしっくりくる特異なキャラクターというか世界観。
住民もおかしいし、SF的事件が起きても軽~くスルーするし、
もう途中から、ツボにはまってはまって(笑)
各話の表紙に、外国語のタイトルがついてるんですけれど、
これも凝っていて、解説読んでなるほど~となります。
もっと読みたい個性度:★★★
このように3つ目の作品までは、ほっこりコメディ色が強いです。
すべてこの路線なのかな?と思っていたら、後半は変化あり。
4つ目「おやすみラジオ」では様相が変わり、幻想的な雰囲気が入り始め、
何らかのメッセージを送る作品に感じるような…。
「おやすみラジオ」は、子どもが奇妙なラジオを見つけるブログを見た大人たちが、
徐々にブログの謎にのめり込んでいき…SF色が強く、読んでいてどうなるか分からない、
いちばん不安感の強い作品でした。
最後の「巨きなものの還る場所」は、最も重厚な作品というか、
時代を超えてあるべきところに帰ってくる者たちと、その場所に宿る力を描いた、
幻想的なSF作品になっています。
コミカルからシュールまで、色々書ける作家さん!
表紙イラストに偽りなく、まさにこんな感じの本(笑)
コミカルでシュール、かつ意味深な物語…変わったSFを読みたい人は、ぜひ!