作者名:米澤 穂信 創元推理文庫
ロンドンから出帆し、波高き北海を三日も進んだあたりに浮かぶソロン諸島。その領主を父に持つアミーナはある日、放浪の旅を続ける騎士ファルク・フィッツジョンと、その従士の少年ニコラに出会う。ファルクはアミーナの父に、御身は恐るべき魔術の使い手である暗殺騎士に命を狙われている、と告げた……。
自然の要塞であったはずの島で暗殺騎士の魔術に斃れた父、「走狗(ミニオン)」候補の八人の容疑者、いずれ劣らぬ怪しげな傭兵たち、沈められた封印の鐘、鍵のかかった塔上の牢から忽然と消えた不死の青年――そして、甦った「呪われたデーン人」の襲来はいつ? 魔術や呪いが跋扈する世界の中で、「推理」の力は果たして真相に辿り着くことができるのか?
現在最も注目を集める俊英が新境地に挑んだ、魔術と剣と謎解きの巨編登場!第64回日本推理作家協会賞受賞作。
呪いあり!魔法アイテムあり!…けれども犯人にたどり着くのは、推理の力!
ファンタジーとミステリの、素晴らしい融合作品です。
ファンタジー×本格ミステリ度:★★★★★
物語の舞台は、12世紀イングランドをもとにした、架空のファンタジー世界で、
ロンドンから船で3日ほどの、ソロン諸島。
ソロン諸島は、領民が住むソロン島と、
領主一家と兵士や使用人だけが住む小ソロン島があります。
あるとき領主が突然、腕利きの傭兵を集め始め、
時を同じくして謎の「聖アンブロジウス病院兄弟団」の騎士ファルクと、
従仕の少年二コラが来訪。
領主が「昔やってきた呪われたデーン人が、再びソロン島を襲いにやってくる」
という衝撃の発言をし、娘アミーナは、驚愕します。
そして、ファルクとニコラは、領主の命が恐るべき「暗殺騎士」に狙われていると警告。
平和なソロン島に、急に不穏な空気が満ちていきます。
しかし警告にもかかわらず、夜は渡航不可な絶海の孤島である小ソロン島で、
領主が暗殺されてしまい…。
アミーナは、ファルクとニコラとともに、犯人捜しに乗り出しますが、
彼女には、暗黒騎士が使う呪いも、そのほかの国々の魔術も、全く未知のもの。
しかも犯人は、暗黒騎士に操られた人物「走狗」で、
本人にも殺人の記憶がないというのです。
反則的な魔法アイテムや、異国の呪術、人を操る魔術がある、剣と魔法の世界において、
推理の力で犯人の可能性を探っていき、真相を暴こうという、驚きのファンタジーミステリ!
本当に解決できるのかな?でも米澤ミステリだし…
と疑いながら読み始めましたが、いらない心配でした。
クライマックスの、‟犯人の可能性つぶし”は圧巻!
胸躍る魔法とアクション!度:★★★★
魔法による殺人劇を、論理的な推理で解き明かそう!という物語ですが、
世界観をいかした、魔法&アクションシーンもあり、
ファンタジーとしても面白かったです。
呪われたデーン人とは何ぞや?本当に海からやってくるの?と、
いまいちピンと来ない感じで読んでいましたが、おお、本当に来た…。
謎多き訳ありそうな5人の傭兵たちや、アミーナが信頼する従騎士、
ファルクとニコラのコンビが、推理はひとまず置いての大活躍!
おのおの、容疑者でありながら、なかなか魅力的な登場人物です。
この戦闘シーン以外にも、アクションが入るので、
退屈せずハラハラしながら楽しめる!
怒涛の推理劇度:★★★★
暗黒騎士が使う卑劣な魔術「強いられた信条」によって、
記憶なき殺人者とされた「走狗」。
ファルクは着々と、検証と聞き込みを進め、推理を組み立てていきます。
しかし、途中で謎が増えたり、呪われたデーン人の襲撃があるうえに、
確実とならない限り説明はしない、というファルクのやり方もあって、
クライマックスまで、真相は謎謎謎…。
容疑者を集めて一気に解決!となるラストは、もう怒涛の推理劇で、
どんどん推理が披露されて、快感でした。
たっぷり意外な真相を楽しんだ後は、余韻の残るファンタジー…
という終わり方で、これまたいい…。
日本人ファンタジー+ミステリでテンポがいいので、結構さくさく読めました。
剣と魔法のファンタジーを楽しみながら、ミステリ欲が満たされる!
米澤穂信クオリティの、傑作長編です。