
作者名:北森 鴻 集英社文庫
小劇団「紅神楽」を主宰する女優・紅林ユリエの恋人で同居人のミケさんは料理の達人にして名探偵。どんなに難しい事件でも、とびきりの料理を作りながら、見事に解決してくれる。でも、そんなミケさん自身にも、誰にも明かせない秘密が……。ユーモラスで、ちょっとビターなミステリ連作集。スペシャル・メニューを召し上がれ。
名探偵の料理と、魅力的な登場人物、そして本格ミステリを楽しめる1冊!
本当に美味しそう…夜中に読むと、危険かも(笑)
ユーモアとビターのバランス度:★★★★
プロローグとエピローグ、そして文庫化の際に加わった短編「特別料理」のほか、
8つの本格推理作品が収録されており、全体の繋がりがある、連作短編集です。
主人公は、人気劇団のまとめ役であるベテラン女優・紅林ユリエ(ねこ)と、
あるきっかけで、彼女の同居人となった謎の男性・三津池修(ミケ)の2人。
ねこが語り手で、おもに劇団に関係した奇妙な事件やトラブルを、
探偵役であるミケさんが、料理をふるまいながら解決する、という流れで進むのですが、
合間に、全く劇団と関係のない人物が登場する物語が挟まれます。
ねこが語る劇団に起きる事件の話は、彼女のさっぱりした性格とやや激しめの言動、
そして、天才肌だけれど人間性に大いに問題がある劇作家・小杉隆一の暴走珍プレー(最高)によって、
基本的にハイテンション、コミカルでユーモラスな魅力がたっぷり。
対して、合間にはさまれる物語は、何やら深刻な雰囲気で、
結末もビターテイストで謎めいています。
一見、あまり関係のなさそうな2つのストーリーが、途中から混線し始め、
クライマックスでは完全に1つの物語となり、最後に驚きの真相が!
この、ユーモアとビターが交互に現れ、次第に混じり合って、
生き生きとした登場人物に十分感情移入したところで、最後の解決編!という流れが、
読んでいてとても楽しめました。
そして、トリを飾る特別短編のラストでは、これまたにくい演出が…。
何となく手に取った作品でしたが、思っていた以上に楽しめて、
北森作品に手を出すきっかけに!
本格推理短編としては「花の下にて春死なむ」も面白いです。
ハイクオリティの短編ミステリ度:★★★★★
美味しそうな料理がたくさん出てきます。
読んでるだけで、本当に食べたくなってくる…!
それも読んでいて楽しいのですが、この作品は、料理の知識を上手~く用いて、
本格ミステリとして、1つ1つの短編のクオリティが高いところが素晴らしいです。
最初に収録されている「ストレンジ テイスト」は、
天才的な料理人が関わる殺人事件、という設定の台本がなかなか進まず、
観客があっと驚くような事件と動機がないだろうか…という相談をうける話。
そこでミケさんがひねり出した事件の全体像が斬新!
大成功した舞台を、自分の前でだけ上演してほしい、という老人の依頼で、
山奥の大邸宅に赴いた劇団が、
奇妙な状況に不安感を募らせる「マイ オールド ビターズ」の真相も、
意外性があって面白いです。
いかにも本格推理といった様相なのが、劇作家の自殺の真相を暴く「ボトル‟ダミー”」。
いちばん何じゃそりゃ?という意外なオチが用意されているのが「特別料理」。
色々なテイストのミステリがあって、楽しめます。
このほかの短編も、私は1つも当てられませんでした…。
何だか止まらない度:★★★
短編集なので、1話1話空いている時間に読んでいこうとしたんですけど、
それぞれの話に繋がりがあるし、いちいち美味しそうだし、ミステリとして面白いしで、
結局ほとんど一気読みになりました(笑)
ねこと小杉師匠の、激しいコミュニケーション(?)を楽しみながら、
この話の解決編まで読もう~と思っていたら、あれよあれよと…。
重たい話もあるんですけど、全体に明るい雰囲気なので、
けっこうスイスイ読めちゃう感じです。
そこまで、がっつり重たい話ではないミステリ短編が読みたい人に、おすすめ。
探偵としてのミケさんも、料理人としてのミケさんも、ぜひともお近づきになりたい!
空腹時は危険な誘惑に満ちた、ミステリ短編集です。