【ミステリ】昏き目の暗殺者(上・下)|死んだ妹が遺した小説「昏き目の暗殺者」。男女の秘密の逢瀬に、SFとファンタジーが入り混じる不思議な小説に隠された、意外な真実とは?名家の姉妹に何が起きたのか…。姉が抱える秘密に驚愕する、ブッカー賞・ハメット賞受賞作!

作者名:マーガレット・アトウッド   ハヤカワepi文庫

1945年、妹のローラは車ごと橋から転落して死んだ。あれは本当に事故だったのだろうか? 年老い孤独に暮らす姉アイリスは、釦工業で財をなした町いちばんの名家だった家族の歴史と姉妹の来し方を振り返っていく……。ローラの手になる小説『昏き目の暗殺者』、次々と亡くなっていく親族たちの死亡記事、そして老女の回想が織りなすある一族の波瀾の歴史。稀代の物語作家が圧倒的想像力で描くブッカー賞、ハメット賞受賞作。

ローラの死後出版され、彼女を伝説の作家としてまつり上げることになった小説『昏き目の暗殺者』―人目を忍んで逢引を続ける男女と、惑星ザイクロンの王政転覆を企む貴族に雇われた盲目の暗殺者のふたつの物語に隠された秘密とは?蜘蛛の巣のように絡み合う現在、過去、そして物語。「昏き目の暗殺者」とはいったい誰を意味するのか?現代文学の数多の技法を駆使し、虚構の神殿を紡ぎあげるアトウッド文学の総決算。

謎めいた小説、波乱の人生を送る姉妹。

一族の壮大なミステリを、じっくり読みたい人に、おすすめです。

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圧倒的な描写度:★★★★★

祖父の時代から描かれる、町で一番裕福な、ボタン工場一族の姉妹の物語です。

長女らしく真面目だけれど、自分の殻にこもりがちな性格の姉・アイリス。

幼少期から浮世離れしていて、独特の感性を持つ妹・ローラ。

ローラは、まだ若い時に事故で死亡し、死後に出版された小説「昏い目の暗殺者」によって、

多くの人の心に残る女性となりました。

物語は、老齢になり、孤独で幸福であるとはいえない状態ですごす姉アイリスが、

回想によって、過去に何が起きたかを語っていきます。

そして残酷で悲しい真相が明らかになっていく…。

一族の真実の姿を描いた大作!

詳細な人物描写、印象的なシーン、性格がよくわかる会話など、

丁寧かつ繊細で、物語の世界に引きずり込まれてしまいます。

主人公アイリスが年を取ったパートと、若かりし頃を振り返るパートで語られ、

途中にローラ著の「昏き目の暗殺者」と、当時記事も挿入され、厚みのある作品に。

世間知らずで、人の言いなりになってしまいがちだったアイリスは、

チェイス家の長女として生きるうちに、冷徹な目で世間を批評する老女になってしまいます。

一体何があって、今のアイリスになったのか…読後に、激しく納得。

後から、台詞の重み度:★★★★

キーパーソンなのが、「昏き目の暗殺者」の作者である妹・ローラ。

幼いころから、繊細で、人と違う考え方をし、何だか異なる世界に生きているような少女です。

不思議な言動をしますが、本人的には、当然そうするべきことのよう。

なので、彼女が何をどう考えているのかが、読んでいて全然分かりません。

姉アイリスも妹を理解できず、ローラの理解者はいなかった様子。

しかし、聡明で色々考えていたのは分かります。

彼女が見ていたもの、その身に起きたこととは一体何だったのか…。

彼女の、姉に対する何気ない発言の意味が明らかにされるとき、ハッとさせられます!

成功しつつも、おのおの複雑な想いがあったらしき祖父母の人生。

時代の動きに翻弄され、心労が大きかったであろう両親の人生。

若い姉妹であり、自分たちだけでは生きられなかった、アイリスとローラの人生。

見た目ほど恵まれていたのか分からない、リチャードとウィニフレッドの人生。

こういった事情を描く力量がすごく、さすが大御所作家のW受賞作でした!

チェイス家にかかわった人々の中で、誰がいちばん幸せだったのか…

ぜひ、本作を読んで思いをはせてみてください。

2冊読んでるみたい度:★★★

ローラ著の「昏き目の暗殺者」が、たっぷりと挿入されています。

こちらも、充分面白いので、2作品読んでいるような贅沢さが!

裕福な若い女性と、いろいろと訳ありの貧しい男の、秘密の逢引。

そこで男が語るのは、惑星ザイクロンの不思議な物語。

何とも不安定な雰囲気を感じつつ、ロマンス・SF・ファンタジーが楽しめる魅力的な小説です。

けれどもやはり、本作との絡みで、

どんなメッセージの込められた物語だったのかと考えるが、面白いですね。

全てのパートを読んでいって、‟昏き目の暗殺者”が誰を指していたのかが、ようやく分かります。

いやー、意味深なタイトルでした。

ローラの「昏き目の暗殺者」には、読者が思っていた以上の秘密が用意されています。

小説や記事の挿入、過去への回想など、技法を尽くして緻密に練り上げた作品。読み応えありです!

読後、タイトルのセンスに脱帽しました!

緻密に計算された、繊細な物語です。

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