作者名:ジョージ・R・R・マーティン ハヤカワ文庫SF
異種生命ヴォルクリンと接触すべく9人の研究者を乗せて旅立った宇宙船〈ナイトフライヤー〉。だが謎の現象が続発する中、彼らは狂気に囚われていく……。Netflixでドラマ化された表題作。先住種属の調査のため、異星を訪れたふたりの超感覚能力者をドラマティックに描いたヒューゴー賞受賞作「この歌を、ライアに」、初訳作品3篇など、SF/ファンタジイ界を代表する作家マーティンの傑作全6篇を収録。
1つ1つの物語が、ずっしりとした読みごたえ!
SF・サスペンス・ホラー・哲学・恋愛…もろもろつまった充実の中短編集です。
色々なSFを楽しめる度:★★★★
6つのSF短編小説が収録されており、
表題作「ナイトフライヤー」と、ヒューゴー賞受賞作「この歌を、ライアに」は、長めの作品。
どの作品も、人間が宇宙に飛び出してからを描くSF小説、というのは共通ですが、
ハラハラする緊迫のサスペンスであったり、
人間のエゴイズムを鋭く描くホラーチックなものであったり、
宗教や哲学、恋愛が深く絡むものであったりします。
私は、宇宙空間で不測の事態が起きて混乱しつつも、謎を解明する話だとか、
未知の生物に立ち向かったり、特殊な力を駆使して危機を切り抜ける話だとか、
そういうSFが好きなタイプなので、前半の3作が特に楽しめました。
かといって、後半3作がいまいちだったかというと、そうでもなく、
宗教や哲学が絡む話であっても、謎が謎を呼ぶし、世界観が面白いので、
こっちはこっちで、全然面白い!
色々なタイプのSF作品が読めて、お得感のある本です。
各作品の完成度が高い度:★★★★★
長めの作品も短い作品も、世界観がしっかりしていて、のめりこめました。
どの作品も、特徴がはっきりしていて面白い!
いちばんハラハラしたのが、1つ目の「ナイトフライヤー」です。
テレパスや強化人間が混ざる研究者たちを迎えたのは、謎多き宇宙船と、船長。
伝説の異種生命と邂逅を果たそうと乗り込んだ面々は、その前に異常事態に遭遇し、大混乱に。
逃げ場がない空間で、恐怖に直面!という、SFパニック映画好きにはたまらない話です!
2つ目「オーバーライド」には、屍人を操って仕事をする、屍使いというおどろおどろしい存在が…。
主人公の屍使いの男性は、美しい星での仕事に満足していましたが、トラブルが発生。
そして、恐ろしい事態に見舞われます。
アクションあり、謎解きありで好き…この設定と主人公で、ぜひ丸ごと一作長編を…!
3つ目「ウィークエンドは戦場で」は、突然想像しやすい設定に。
いやいや戦争ごっこに参加した男性の、悲惨な体験を描くダークな作品です。
この人がまた、鬱屈としていまして…。
訳者あとがきの‟リア充爆発しろ!”の一文に笑ってしまった。まさに(笑)
4つ目「七たび戒めん、人を殺めるなかれと」は、結末の意味が分かったときに、ゾ~っとします!
異星生物と、残虐な狂信者のバトル…という話では終わらない作品。
個人的に、”おぞましさ”でトップの話でした。
5つ目「スター・リングの彩炎をもってしても」は、
いちばん哲学的で、何というかしっとり…本作の中で最も落ち着いた作品。
ワープゲートのような謎空間と、外に永遠に続く闇について、主人公たちが考えをめぐらせます。
最後は「この歌を、ライアに」という有名作。
異星生物のとんでもない宗教に、なぜか改宗する人間たち。
その謎を解くために呼ばれた、テレパスのような能力のある、恋人同士の男女。
調査を進めるにつれて、根源的な考えが揺らぎ、そして迎える結末は?という話です。
私はヒロイン・ライアより、断然語り手ロブに感情移入しましたが、
人によって感想がかなり変わりそうな作品かも。
宇宙と人間関係と…度:★★★
広大な銀河と、人類以外の異種生命、はるか遠く離れた惑星の数々、人間が宇宙に築いたもの
…壮大な世界観の小説です。
少し難しい部分もありますが、読み進むとイメージが出来てきて、何となく分かってくる感じ。
作品によって、物語の舞台は変わりますが、
作者の中で、設定がしっかりしているのを感じさせる、妙にリアルな描写が多いです。
異種生命たちの描写も生々しいですが、登場人物の心理描写も生々しい…。
「未知の宇宙を描くSFならではの、奇妙で興味深い設定」と、
「いつまでも変わらない、人間の繊細な心理」が絡んだうえで、
「恐ろしくも魅力的な謎」を提示してくる、読み応えたっぷりの短編集でした!
SFの楽しさ、詰まっています!
クオリティの高い短めのSF作品を求める人は、ぜひぜひ。