作者名:高村 薫 早川書房
(文庫本は、講談社・新潮社から出版。どちらも上・下巻)
昭和51年南アルプスで播かれた犯罪の種は16年後、東京で連続殺人として開花した―精神に〈暗い山〉を抱える殺人者マークスが跳ぶ。元組員、高級官僚、そしてまた…。謎の凶器で惨殺される被害者。バラバラの被害者を結ぶ糸は?マークスが握る秘密とは?捜査妨害の圧力に抗しながら、冷血の殺人者を追いつめる警視庁捜査第一課七係合田刑事らの活躍を圧倒的にリアルに描き切る本格的警察小説の誕生。
警察による捜査の、詳細な描写がすごい!
男たちの熱いドラマと、殺人者マークスの心理を描き切る、警察小説の傑作!
とにかく細部がすごい度:★★★★★
物語の始まりは、昭和51年の南アルプス。
人付き合いが苦手な男が、山で夜中意識が朦朧としているときに、殺人を犯してしまいます。
なぜか暗い吹雪の中で下山しようとした被害者、消えたスコップなど不審な点があったものの、
心身耗弱の犯人が自供したことで、捜査は終了。
同じ時、山では車内で一酸化中毒による一家心中事件が起き、少年が一人生き残っていて…。
それから13年後、山から男性の白骨死体が見つかり、
さらにその3年後、謎の人物「マークス」による、被害者の繋がりも凶器の形状もはっきりしない、連続殺人事件が発生!
第三強行犯捜査班七係の若き刑事・合田雄一郎が捜査に加わります。
事件はさらに続き、権力のぶつかり合いも生じ、関係者の混乱は増すばかりの緊迫の展開。
鬼気迫る警察の捜査と、犯人と捜査関係者たちの心理を、
マークスのパートと合田のパートを中心に、緻密に繊細に描いた作品で、
直木賞受賞も納得の、重厚な傑作でした。
警察組織の事情、捜査の進行の仕方、各班のパワーバランスと駆け引き、などなど。
どれだけ細かく取材をしたのか、とにかくリアルで細かい!
警察の仕事量に、びびりました…。
これは、殺人が起きるたびに、なかなか帰れないはずだ…。
事件がひとたび起きると、
ちょっとでも関わりのある人には聞き込み、コツコツ証拠集め、何か見つかったら購入店を探し、
繰り返しの捜査会議で報告、被害者の人となり・過去について調べる…etc.
詳細でリアルな描写と、緊迫の展開、行動が読めない犯人、合田刑事の危うい魅力。
もろもろつまっていて、リアルなだけの作品ではないところがすごいです!
不安定な男を書かせたらピカイチ度:★★★★★
高村作品に出てくる男って、ことごとく危ういバランスをギリギリ保っている感じなんです。
溜まっていたものが溢れて、なんでそうしちゃうの?という予期せぬ行動をしたり、
危うい男同士で、惹かれ合って犯罪行為に手を染めたり。
合田雄一郎の作品は、高村さんの数少ないシリーズものです。
シリーズを重ねるごとに落ち着いた男になるんですが、この後3作目くらいまでは本当に危なっかしい!
でも好きになってしまう人物なので、ハマってしまい揃えることに。
高村さん、単行本を文庫化する際に、大幅改稿するのがお約束なので、
文庫でハマった私は、単行本も揃えることになりました(泣)
マークスが悲しすぎる度:★★★★
何故マークスと名乗り、事件を起こすのかは分かりませんが、
マークスの正体と事情は、最初から明らかになっていて、彼を支える看護師の心理が描かれます。
マークスの人生と今の状態が、本当に悲しい!
こんなに憎めなかった殺人犯、いないな~。
単行本のマークスは、看護師とのやり取りが切なく、
講談社文庫のマークスは、壊れていく描写がより切なく、
どっちも悲しすぎる…(泣)そして読むのが止まらない…。
評価が高いので、文庫本を読んだ後に改稿前の単行本を読み、
内容変えて文庫化はちょっと面倒だなぁなんて思ってしまったのですが、
また別の魅力を発見できて、読み比べに満足しちゃいました!
どっちがよりおすすめかというと、個人的には単行本です。
日本の警察小説が好きな人には、ぜひ読んでほしい!
刑事の心理も、犯人の心理も、読むほど胸に迫る傑作です。