
作者名:畠中 恵 講談社文庫
お江戸が東京へと変わり、ビスキット、アイスクリン、チヨコレイトなど西洋菓子が次々お目見え。築地の居留地で孤児として育った皆川真次郎は、念願の西洋菓子屋・風琴屋を開いた。今日もまた、甘いお菓子目当てに元幕臣の警官たち「若様組」がやってきて、あれやこれやの騒動が…。キュートな文明開化物語。
素敵なお菓子と、魅力的な登場人物たち!
ただし、キュートなだけの物語ではなく…
時代の変遷に四苦八苦する、若者たちの生き様に注目!
歴史の勉強になる度:★★★★
舞台は明治23年、江戸が明治に変わり、世の中は文明開化一色。
年号が変わり、わずかの間にあまりにも世の中が変わって、
時流に乗って栄える人物もあれば、今までの特権を失い没落する家もある、激動の時代です。
主人公は、念願だった西洋菓子屋「風琴屋」を開いた青年・皆川真次郎(愛称:ミナ)。
彼は、両親を亡くしてから、訳あって、外国人居留地で育ったため、
外国語が得意で、西洋の料理や菓子作りが得意。
彼はお菓子作りの腕は素晴らしいようですし、なかなか聡明なのですが、
世の中は、まだ気軽に庶民が西洋菓子を買ったりせず、お店の運営は苦労の連続です。
そのお菓子目当てでよく来るのが、元幕臣で世が世なら裕福な旗本の跡取りだったはずの、
巡査たち。自称「若様組」。
と、ここまで舞台とメインの登場人物について書いてみただけでも、
明治時代になって、人々の事情がだいぶ変わっているのが感じられます。
本作を読んでいくと、新時代に移り変わり、
どのような人物が成功したのか、なぜやんごとない家柄の人間が没落せざるを得なかったのか、
近代的になる町の片隅でどんな事態が起きたのか、
海外との交流が進んだことで生じた新しい問題とは何なのか、
この時代の経営者や若者は、何を考えどう生きようとしたのか…
といったことが分かり、色々と勉強になる!
楽しみながら、歴史を少し学べる…お得かもしれません。
タイトルが秀逸度:★★★★★
5つの短編からなり、各タイトルにはスイーツの名前が。
このタイトルのつけ方が、読み終わった後、なるほど!という秀逸なつけ方。
第1話「チヨコレイト甘し」では、ミナと若様組が、旧松平藩のトラブルに巻き込まれます。
新時代に新しいお菓子の店を開こうとするミナ、巡査という仕事で生きようとする若様たちと、
お家再興の可能性にしがみつく元藩士の姿が対照的。
そしてこの話、甘いのはチヨコレイトではなく…でも納得のタイトルなのです。
第2話「シウクリーム危うし」は、1話で華やかな居留地の洋館を見た後からの、貧民街の話!
穏やかな青春ミステリではないと気づかされます。
タイトルの本当の意味に、ハッとしました!
第3話「アイスクリン強し」では、いい加減な記事を書いた新聞社に乗り込むのですが、
そこでとんだ騒動が。
解決の糸口になるのは、武力ではなく…。
傍迷惑な騒動に巻き込まれつつも、生き生きとした面々と、
時代の流れを考えさせるミステリが面白い表題作でした。
第4話「ゼリケーキ儚し」は一転、コレラ感染の危機という深刻な話。
格差問題や若様組のままならない立場に加えて、女性ならではの問題も浮上しますが、
ヒロインの魅力が満載で、ニヤリとする場面も。
第5話の「ワッフルス熱し」は、最後の話だから!と言わんばかりの、
若様組の暴れ…活躍っぷりが描かれて、ほのぼのとして好きです。
とにかく、どの話のお菓子も美味しそうで、これは夜中に読むと危険かも(笑)
魅力満載のキャラクター度:★★★
口では文句を言っても、何だかんだで面倒見がいいお人好しのミナ。
飄々として、ミナをよくからかいつつも、頼りになる若様組の中心・長瀬。
成金の貿易商の娘で、2人とは幼友達。可愛くて気が強い令嬢・沙羅。
この3人がメインですが、沙羅の父親や若様組のメンバーも、いい性格してらっしゃる!
とくに好きなのが、若様組の中でも、目立って美男子である園山です。
美男子で剣の達人なのに、何かとキレて暴走しやすく、
どの話でも、気を使われまくってるのがツボにはまりました。もはやギャグ要員(笑)
世知辛いなぁ…という内容も多々描かれるのですが、
作品全体としては、爽やかでほのぼのとした雰囲気があり、
それは美味しそうなお菓子と、生き生きした若者たちのおかげだと思います。
個人的に夏にアイスクリームから連想して、たまに読み返したくなる作品。
読むと、頑張ろうかな…という気持ちになる作品です。
お菓子食べたくなるから、午後に読むのがおすすめ(笑)