作者名:三浦 しをん 中公文庫
ここは杉並の古びた洋館。父の行方を知らない刺繍作家の佐知と気ままな母・鶴代、佐知の友人の雪乃(毒舌)と多恵美(ダメ男に甘い)の四人が暮らす。ストーカー男の闖入に謎の老人・山田も馳せ参じ、今日も笑いと珍事に事欠かない牧田家。ゆるやかに流れる日々が、心に巣くった孤独をほぐす同居物語。織田作之助賞受賞作。
生きていれば、不安も哀しみもあるけれど、素敵な同居人がいれば日々は楽しい!
リアルと不思議が絶妙に混ざり合う、個性的な同居物語!
あ~、それあるある度:★★★★★
谷崎潤一郎「細雪」を土台にした作品で、
登場人物の名前も、細雪の四姉妹の名前が元になっています。
しかし共通しているのは、大まかな設定と女性の生き方や生活を描いた作品だということだけで、
「三浦しをん版現代女性の個性派同居物語」となっており、
全体にコミカルで語りも軽妙、非常に読みやすい作品。
日々の生活のエピソードや悩み、食べ物の好みとか変なこだわりなど、
「そういうの、あるある!」という部分が多く、面白かったです。
登場する4人の女性は、親しみやすく各々見事にバラバラな性格の持ち主。
主人公は、37歳独身の刺繍作家・佐知。
洋館の持ち主、牧田家の一人娘で、刺繍作品と教室開催で生計を立てており、かなりマイペース。
妙齢の女性として、いろいろな悩みや心配事を抱えていて、
彼女の心情に共感するのですが、根がおっとりでどこかが抜けているので、
読者は深刻な悩みに引きずられることなく、
気が付いたら変な会話や突っ込みに笑っている、という状況に。
この切り替えが素晴らしく、全体的に楽しく読めるのが素敵。
佐知の母・鶴代は70歳近いですが、お嬢様気質が抜けず、
その割にたくましいというか、豪胆というか…
「いいキャラしてる」という表現が、いちばんしっくりくるような(笑)
昔色々あったようで、その辺の話が、この作品の流れを大きく変えることに!
ある事情で、牧田家に居候をすることになった、佐知の友人・雪乃の、
ドライさと可愛げが好き!
雪乃の後輩で、こちらも居候となった多恵美のマイペースさも相当のもの。
かといって、考え方は個性的だけれど、彼女なりに考えて行動しており、なかなか魅力的です。
彼女の無邪気さ若さが、この作品の華かも?
以上4人の女性が、みんなそれぞれ魅力的で、
日々のトラブルや、人生の悩みが描かれても、何だか温かい気持ちで読める…そんな物語でした。
あと、不思議な展開があるのも、SFファンタジー好きには嬉しい!
変化球がよい、不思議作品度:★★★★
女性4人暮らしですが、牧田家には、
祖父の代から仕え、門のそばの小屋に住んでいる老齢の男性・山田さんがいます。
この人、父親を知らない佐知の事情もあって、物語の中で大切な存在。
女性の生き方云々だけでなく、“4人の女”に関わる男性陣との関わり方も描かれます。
また、途中に変化球という感じで、ある存在が語り手になります。
こういうの好きなので、嬉しい展開!
クライマックスの盛り上がりも良く、
最後の、「問題はあまり解決していないのに、何だろうこの大団円感は?」
という、終わり方も好きです!
女だらけの暮らしに混じる、山田老人という異質の存在(この人も個性的)。
4人に関わる、ダメダメだったり魅力的だったりする男性たち。
いきなり物語に乱入する、摩訶不思議な存在。
これらが、物語のいいアクセントになっており、
女の話題だらけでダレることなく、テンポよく読める作品になっています。
何となく止まらない度:★★★
とにかくテンポがよく、読みやすい文章で、
佐知は感情移入しやすく、登場人物は魅力的なので、
ぐいぐい読んじゃって、気が付いたらクライマックスでした。
謎や大事件があって、気になって気になってしょうがないから、一気読みだ!という作品ではないんですけど、
ほっこりまったりしながら、ときに切なくなったり共感しながら、
読んでいると、いつのまにやら止まらない!
週末に、家でゆっくりしながら読みたい本。
男性が読んでも、面白いと思うんですけれど、
やはり女性が「そうそうそうだよねー。」となって、より楽しんで読めそう。
深刻じゃないけれど、何となく不安な気分のとき、
重い気分にならずに、まぁこういう考え方もあるか、と読める作品です。
あなたは、4人のうちの誰にいちばん近いでしょう?
何だか羨ましいこの生活、ぜひ読んで楽しんでください。