作者名:山口 雅也 創元推理文庫
ニューイングランドの片田舎で死者が相次いで甦った! この怪現象の中、霊園経営者一族の上に殺人者の魔手が伸びる。死んだ筈の人間が生き還ってくる状況下で展開される殺人劇の必然性とは何なのか? 自らも死者となったことを隠しつつ事件を追うパンク探偵グリンは、果たして肉体が崩壊するまでに真相を手に入れることができるか?
*第1位『このミステリーがすごい!’98年版』1988-1997 10年間のミステリーベスト10国内編
*第2位『もっとすごい!!このミステリーがすごい!』1988-2008年版ベスト・オブ・ベスト国内編
*第8位『このミステリーがすごい!’89』国内編
犯人どころか、殺された被害者も逃げる⁉
アメリカの霊園で繰り広げられる遺産騒動は、前代未聞の事態に!
新しい設定と定番ミステリの融合度:★★★★★
主人公・グリンは、パンクファッションに身を包みつつも、
身内が幼いころ相次いで死亡したため、「死」について考え続けてしまう、
見た目とは裏腹に、賢く物静かな少年。
彼の一族は、アメリカの田舎町で大きな霊園を経営しており、
祖父が危険な状態のため、家族が集まって、
遺産についての話し合いがなされることに。
家族内で諍いが起こりつつも、比較的平穏に過ごしていたあるとき、
グリンは突然、毒を盛られ死んでしまうのです!
おりしも、このとき世界では、死んだ人間が蘇る現象が起き、騒然としていました。
グリンも、「生ける屍」と化して、蘇ってしまい…。
遺産絡みの陰謀の巻き添えで殺されたのではないか、という疑いを抱いたグリンは、
自分が死んだことを隠しながら、捜査をこっそり開始。
そしてその後も、殺人事件が起き、被害者が蘇ってしまうのです。
事件現場でアリバイについて話し合っていたら、
「あれ?被害者起き上がってない?」となる、何ともシュールな展開(汗)
被害者が蘇ったのなら、スピード解決かと思ったらそうはならない…
どころか、また新たな事件と問題が増える!という珍事が連続。
捜査に当たる警部が、神経まいるのも仕方がない…お、お気の毒。
このように、設定は変わっていますが、起きる事件は、
よくある遺産相続に絡んだお家騒動や、密室殺人などなど、ミステリ定番のもの。
それが、死者が蘇る設定によって、アレンジの効いた秀逸なものになっています。
ヒロインの魅力度:★★★★
いまどきの不良少年ファッションながら、人の生き死にについて考えるグリンも、
そのギャップと、繊細な感性が魅力的ですが、
ヒロイン・チェシャも、この作品でとても大事な存在かと。
グリン同様、不良ファッション&メイクのややぽっちゃりな女の子ですが、
底抜けに明るくて、楽天的に生きることを貫くスタイルは、
舞台が霊園のこの物語の、重苦しくなりがちな雰囲気を変えてくれます。
考えなしに行動して数々のトラブルを招き、思わず吹き出してしまう発言をしますが、
根がいい子なので、いちいち微笑ましい。
死生観が語られたり、殺人事件が起きたりの、ずっしりした大作が、
そこまでずどーんと重たくならないのは、チェシャの魅力も理由の1つです!
本当に日本人が書いたの?度:★★★★
アメリカの、日本とは全然違う葬儀会社の仕事や実情、
宗教観と霊園の歴史、エンバーミングという特殊性、
登場人物たちの信仰と死生観…などなど、
読んでいて、ほほ~あっちではそういう風なんだ!と驚く内容が、
しっかり描かれていて、日本人が書いた作品という感じがしませんでした。
海外ミステリを半端ない知識で描く、というと私は皆川博子さんを思い浮かべますが、
山口ミステリもすごかった!
犯人の正体も動機も全然わからなかったし、最後の一行にはやられた…!
捜査対象は、生きている人間に限らない!
一読の価値ありの、傑作本格推理小説です!