作者名:三津田 信三 文春文庫
敗戦に志を折られた物理波矢多は、九州で炭坑夫となる道を選ぶ。意気投合して共に働く美青年・合里光範もまた、朝鮮人の友を過酷な労働に従事させた過去に罪悪感を負っていた。親交を深める二人だが、相次ぐ変死体と“黒い狐面の女”の出現で炭鉱は恐怖に覆われる。ホラーミステリーの名手、新シリーズ開幕!
ミステリ要素の強いホラーといえば、この人!
本格推理シリーズも、もちろん面白いです!
主人公が魅力的度:★★★★
主人公・物理(もとろい)波矢多(はやた)は、満州の建国大学の学生でした。
この大学は、選ばれた優秀な若者しか行けない、超エリート校。
生徒たちは、より良い世界をつくることに情熱を燃やしていましたが、
地元民とはうまくいかず、戦争がはじまり徴兵され、
生徒も教師も、激動の時代に飲み込まれてしまいます。
波矢多も、当初は熱い思いを抱いていましたが、民族が争い合う姿を見るにつれて、
自分の夢を見失っていってしまうのです…。
しかし、炭鉱の暮らしを体験し、いろいろな角度から敗戦後の国と人々を見て、
自分の目指す道を探そうと決意。
めげない姿勢と、普段の好青年っぷりに、応援したくなります!
もともと明晰な頭脳が、事件でも活躍。
今後、名探偵になっていく予感を感じさせました!
戦後の描写がリアル度:★★★
戦後の暮らしの辛さ、脱走者がでるような炭鉱の厳しさ。
戦争中の行動に対する、深い後悔。
たくましく生きていこうとする人々。
などなど、考えさせられる部分が多かったです。
生々しい話も、いっぱいで…平和な時代に生まれるって、本当にありがたい…。
炭鉱で働く女性が、明るく気丈で、魅力的でした。
好青年である主人公を意識した言動は、いじらしくて可愛い!
全体的におどろおどろしい雰囲気の本作で、リフレッシュさせてくれる存在かも。
怪談とミステリの融合度:★★★★★
炭鉱にまつわる、恐ろしい黒い狐面の女の話が、おどろおどろしい…。
冒頭の、‟ある老炭鉱夫の話”は、本当に怖い!
最初読んだとき、ひ~!ってなりました。
この本で、一番怖い部分じゃなかろうか…(汗)
炭坑での事故の後、黒面の狐が目撃され、つぎつぎ殺人が起こります。
炭鉱という過酷な空間と、怪談の不気味さが融合し、
何とも言えない、恐ろしい雰囲気の作品に。
確かに、炭鉱の暗闇って、慣れないうちはメチャクチャ怖そう…。
秀逸なミステリで、最後の最後まで、騙されました!
恐ろしい怪談と奇怪な殺人!
まどわされず、真相が当てられるでしょうか?