作者名:乾石 智子 創元推理文庫
北国カーランディア。建国以来、土着の民カーランド人と征服民アアランド人が、平穏に暮らしてきた。だが現王のカーランド人大虐殺で、見せかけの平和は消え去った。娘夫婦を殺された大魔法使いが平和の象徴の鐘を打ち砕き、闇を解き放ったのだ。封じることができるのは、古の“魔が歌”のみ。著者が長年温めてきたテーマを圧倒的なスケールで描いた、日本ファンタジイの金字塔。
打ち砕かれた鐘の破片は飛び散り、とんでもない事態を引き起こす!
憎しみの連鎖を断ち切らんとする、迫力の大作ファンタジーです。
正統派ファンタジー度:★★★★
北国カーランディアには、魔法を使えて物づくりが得意な民・カーランド人と、
素朴なさすらいの民ながら、計算高い一面もあるガイエール人が暮らしていました。
その後、体格がよく他民族に比べるといささか好戦的なアアランド人がやってきて、
一応は平和な暮らしを送っていたのですが…。
あるとき、横暴で残虐なアアランド人の王が、1万人のカーランド人を虐殺したため、
娘夫婦を殺された大魔法使いデリンが激怒。
平和の象徴として、カーランド人の職人が作り上げた鐘を破壊し、破片は大陸中に広がります。
アアランド王族や、王都以外の街で暮らす人々、動植物にすら入り込み、破片は影響を与え…。
主人公の弓使いのカーランド人青年・タゼーレンと、
王の跡取りたるアアランド人兄弟・イリアンとロべランの、
運命を大きく変えることに!
カーランド人魔法使いデリンが、この世に混乱をもたらしたため、
カーランド人とアアランド人の関係はギスギスし、ついには争いが起きてしまいます。
読んでいて、カーランド人が可哀そう…アアランド人いい加減にしろよな、という事態に。
挙句の果てに、ある人物が大暴走するわ、伝説の怪物が蘇るわ…。
ちゃんと収拾つくのかなこれ?というくらい、後半はどろどろの戦乱ファンタジーに突入しますが、
魔法と旅と友情と成長も、ちゃんとあります!
デリンの孫・オナガンと、魔法の才能のないタゼーレンは、平和を取り戻せるのか…。
民族同士の対立問題を取り入れた、重厚なファンタジー作品でした。
激しいぶつかり合い度:★★★★★
同じ壮大な正統派ファンタジーというジャンルであっても、
デビュー作「夜の写本師」と、本作「滅びの鐘」は、けっこう印象が異なります。
別に「夜の写本師」が、大人し~い作品であった、という訳ではないのですが、
読み比べると、「滅びの鐘」は、だいぶ登場人物の感情の動きが激しい!
一部の人間が、あ~あどうなっても知らんよ…というくらい、やらかしちゃうし!
‟歌い手”と呼ばれる、魔法を使える竪琴の使い手。
動物と意思を疎通できる‟冬の針葉樹の瞳”を持つ者。
復讐のゆえに、闇にとらわれた‟漆黒石の歌い手”と、暴れ狂う化け物。
伝説の都にあるはずの、唯一の希望である‟リュウダンの詠唱”…などなど。
う~ん、乾石ファンタジーだなあ!という設定と、
時にすさまじい、暴力的な民族対立が混ざり合っていて、
読み応えたっぷりの、重厚な作品でした。
よほどまとめにくかったのか、巻末には、作者の苦労エピソードが…(汗)
もはや歴史小説度:★★★
ファンタジーは、世界観の造り込みが重要なジャンルですが、
本作は、がっちりしっかり、歴史・因縁・文化などなど描かれており、
どっぷり、のめりこめました。
何だかもう、魔法と伝説ありの民族歴史小説?という雰囲気を感じるくらい。
炎や風の魔法を使って、魔物を倒して…という物語ではなく、大人向けのファンタジー。
気軽に楽しめる雰囲気の作品ではないですが、
読後、ふ~がっつりファンタジー読んだわ!と、満足感あります。
あえてどちらが好きか…と聞かれると、迷いますけど個人的には「夜の写本師」…。
でも、「滅びの鐘」も楽しめるので、もう好みの問題かな!
心に残る、平和のための壮絶な戦いを描いた作品。
ファンタジー好きは、ぜひ読んでみてください!