作者名:大沢 在昌 角川文庫
北海道の麻薬取締官・大塚に、ロシアマフィアと地元やくざとの麻薬取引の情報が入る。現場を押さえるため万全の態勢で臨んだ大塚だが、ブツは押収したものの、麻薬の運び屋であるロシア人を取り逃がしてしまう。ロシア人は、銃撃による重傷を負いながらも、警官数名を素手で殺害し、町へ消えてしまったのだ。あり得ない現実に、新種の薬物を摂取している可能性が考えられた。一方、犯人は逃走する際に一枚の絵を大事に抱えていたという。この絵は一体何なのか? 大塚はロシア人ホステス・ジャンナの力を借り、それがロシアの教会で百年にわたり封印されていたイコンであることを知る。
イコンに描かれていた「カシアン」は聖人に列せられながらも、心に強い憎しみを抱えた人間にとりついて、欲望を満たす力を与える魔物であるという。その伝説ゆえ長きにわたって封じられていたのだ。超人的な力を発揮して逃走を続けるロシア人との奇妙な符号に気づいた大塚は、命をかけて真実を突き止めるため、心の奥底に澱んでいた過去の傷と対峙しようと決意する。向かった先は東京――憎しみが渦巻く魔物の理想郷だった。
ロシアの魔物が、日本で蘇る!
つぎつぎ悪人に乗り移る相手を、どう封印するのか。
緊迫のアクションサスペンスです!
魔物vs.麻取が斬新度:★★★★★
人につぎつぎと魔物が乗り移り、主人公がそれを退治または封印する。
映画でも、よく見る設定ですよね。
本作が新鮮なのは、魔物と戦うのが、麻薬取締官ということ!
たいてい、エクソシストか協会関係者か、全く普通の一般人とかな気がします。
物語の始まりの舞台は、北海道。
ロシアからの運び屋が、麻薬を所持して船でやってきて、
地元ヤクザと取引をするという情報を得た麻薬取締官たちは、
運び屋が船から降りたらすぐに捕まえようと見張っていたのですが、
その後、トラブルが起き、運び屋は逃走してしまいます。
主人公・大塚は、別の人物を調べようとしていた矢先に、
逃走していたロシア人に遭遇するのですが、
人間離れした力で暴れて、なんと銃弾を受けても倒れない!
これは一体?と困惑する大塚のもとに、ある情報が入ってきて…。
ある人物曰く、協会のイコンという絵に封印された、
魔物カシアンが人間に乗り移って、暴れているに違いないというのです。
かくして、公務員が魔物と戦うという、とんでもない展開になっていくのでした。
序盤からスピーディーに展開して、アクションも多く、
上・下巻の大作ですが、けっこうスラスラ読めちゃいます。
麻薬取締官が、取引をおさえようと見張っていたら、
とんでもないのが来ちゃいましたよ!という物語なのですが、
大塚が意外とすんなり、魔物という存在を受け入れますしね。
序盤から、ありえない状況に陥ってしまうのもあるんでしょうけど、臨機応変な人です。
魔物は悪人に好んで乗り移るので、欲望渦巻く日本の都会が、お気に召した様子。
日本も、日本の男も気に入った、とか言っちゃう始末。
気に入られてもなぁ…。
魔物大暴れ度:★★★★
イコンという、日本人には馴染みのない聖画像に封印されていた、魔物カシアン。
悪人に、好んで乗り移り、意識をある程度共有して暴れます。
外に出られるときに、さっそく殺し屋と触れ合えるという僥倖。
その後も、うっぷんの溜まったヤクザやら、生まれついての殺人者などに順調に憑依。
人間的には、最悪なんですけど、
魔物的には、どれだけ運がいいのか…!
おかげさまで(?)、日本で大暴れ。
気に入って、このまま日本で好き勝手したいご様子。
大塚取締官、本当に頑張れなんです!
大塚は、過去に忘れられない悲劇を経験しており、
苦い思い出のある東京を離れ、北海道で働いていたのですが、
魔物カシアンのせいで、因縁のある東京に戻り、そこで己を試されることに!
真面目で基本善良で、意外と適応力が高い、なかなか魅力的な主人公でした。
信仰の違い度:★★★
戦いの合間に語られるのが、信仰のお話。
過去の悲惨な思い出から、信仰には懐疑的な主人公・大塚と、
辛い思い出があっても、信仰心を失わないロシア人女性・ジャンナ。
この2人が、協力してカシアンについて調べる間に、
信仰と憎しみについて語り合います。
ジャンナが語る内容は、日本人には新鮮な考え方。
こんな風に考え、信仰する人たちもいるんだなぁと、勉強になりました。
この辺の話は、ラストの伏線だったのかもしれない…。
スピーディーで、スリリング!
悪魔に乗り移られた人間が~という話が好きな人は、ぜひ。