作者名:恒川 光太郎 角川ホラー文庫
【夜市】妖怪たちが様々な品物を売る不思議な市場、夜市。小学生の時に迷い込んだ裕司は、自分の弟と引き換えに「野球の才能」を買った。野球部のヒーローとして成長した裕司だったが、罪悪感を抱き続けてきた。そして今夜、弟を買い戻すため、裕司は再び夜市を訪れた。―第12回日本ホラー大賞受賞作
【風の古道】7歳の春、迷子になっていた私は、見知らぬおばさんに導かれて入った奇妙な未舗装道を歩いて家まで帰るという経験をしたことがあった。12歳の夏休みにその話を親友のカズキにしたところ、興味を示した彼と共に私は再びその道に入ることになる。その道は、古くから確かに存在しながらも、ほとんどの人間には見えず、神々や異形の者たちが通る特別な道「古道」であった。一向に出口が見当たらず、不安を募らせていた私達は、レンという名の永久放浪者の青年と出会い、彼の案内で最も近くにある出口に向かう。しかし…
美しく幻想的で、残酷で恐ろしい、異界の市場。
…ぜひ、覗いてみてください。
妖しい幻想度:★★★★★
夜市では、一つ目ゴリラがなんでも斬れる剣を売ったり、のっぺらぼうが老化が遅くなる薬を売ったり。
お客も、謎の老紳士に、腐乱死体に、着物を着た狸などなど。
森の中の、鬼火と人魂に照らされた市場だなんて!
こういう幽玄な世界観、たまらなく好きです。
読むほどに不思議で魅力的な世界が広がります。
無事に帰れるのなら、行ってみたいですね。
風の古道も人の道ではないので、色々な物の怪が通りますとも!
そして、邪悪な人間も…。
恒川作品に出てくる危険な存在は、物の怪だけではありませんから。
意外な展開度:★★★★
2作品とも、展開の読めなさがすごいです。
話がどう転がっていくか、先を読めた人はすごすぎる!
夜市は、閉塞的な謎の市場だけの話ではないし、
風の古道は、青年レンの秘密に唖然。
個人的には、風の古道の方が、より心打たれました。
切なく残酷で、でもどこかに優しさがある…
‟道”には、歩くものを包む、何かがあるのでしょうか。
1つのジャンルに収まらない度:★★★
夜市は、ホラーファンタジーからのSF。
風の古道は、ホラーかつロードムービー的。
色々なジャンルの要素を、幻想性で包んでいます。
夜市が気に入った人は、柴村仁の「夜宵」もおすすめです。
こちらは、なんでも手に入る市場を守る男性が主人公で、
より若い文体でアクション多め、エンタメ的。
夜市の方が好き!という人が多いみたいですが、私はこちらもかなり好きです。
和風の異世界、特に夜の幻想的な雰囲気が好きなので、
そういう作品が増えるといいなぁ。
「夜市」が面白かったので、他の恒川作品を角川ホラーから攻めてみました。
どれも面白いよう!
短編はもちろん、長編もおすすめです。
収録2作品とも傑作で、ホラーファンタジーの名手・恒川さん入門編にぴったり!
美しい表紙も、魅力的です。