作者名:真藤 順丈 文春文庫
人生の大半を路上で過ごしてきた、ろくでなしの青年・グン。妻・娘とともに施設に入所した桧山優作が、幼い息子だけを置き去りにしたのは何故なのか。心象風景=“道”を歩いたグンは、驚愕の真実に突き当たる…。古より存在する「歩く者」たちと、世界の壮大な意味。圧巻のラストへと導かれる異次元ロードノベル。
独特な語り口も癖になる?
意外過ぎる場所を歩く、真藤順丈の超個性派ロードノベル!
異色のロードノベル度:★★★★★
ロードノベルは数あれど、本作は、移動する場所が何とも変わっています。
主人公は、ろくでなしの落ちこぼれ青年・グン。
路上でその日暮らしをしていましたが、
次第に他の落伍者たちと交流を持つようになり、
その中で、両親と姉から離れて暮らしている8歳の男の子・マナブと出会います。
両親と姉は、貧困者の救済をうたっている団体「蒼穹の家」のコミューンに、
世間と縁を切り、入所したらしいのですが、
なぜか幼いマナブは、親戚に預けられ置いてけぼりに。
家族に会いたいと願うマナブのために、
仲間のタイゼンと、彼の知り合いの謎の女性・アイラアイラとともに、
グンは、どこか怪しい団体の調査に出かけます。
そこでグンは、「他人が歩いてきた道」を歩く冒険に出る羽目になり、
「歩く者」の一人として、他者を救う手助けをすることに…!
「他人が歩いてきた道を歩く」とは何ぞや?という感じですが、
グンとともに⁇を味わいながら、読み進めていくと楽しいです。
独特の語り口度:★★★★
主人公はグンですが、文章は三人称的。
「~です。」「~なのでした。」といった、
丁寧で滑らかな、ですます調で、そこだけは少しおとぎ話チック。
上品な語り口なのに、たまに毒舌を吐く感じの文章が、
何だか個性的で楽しめました。
物語が進むにつれて、割と重い展開にもなるのですが、
意外とスイスイ読めてしまうのは、文章の力なのかもしれません。
W受賞作「宝島」も、沖縄の方言うちなーぐちが使われていましたが、
斬新で面白い文章を書くのが、すごく上手い作家さんです。
ダメダメ登場人物の魅力度:★★★
トラブルに巻き込まれていそうな家族を救わんとするのは、
路上でダラダラ過ごし、現状を変えようとする気もなさそうな、タイゼンとグン。
タイゼンは普段は、酒と大麻で奇行が目立ち、
グンは就職しようとせずに、流れ流れ路上のグループに加わった青年です。
この2人、命がけの旅をしている最中でも、残念な掛け合いが止まらず、
シリアスな話のはずなのに、ところどころ笑えます。
グンの情けなさは、主人公として大丈夫?と言いたくなるくらい。
しかし、根はそんなに悪くなさそうだし、タイゼンも時には頼りになり、
何だか嫌いになれない2人組。
序盤ダメダメな2人の物語が、
後半、まさかこんなに壮大で感動的なことになるなんて…と驚き、
クライマックスには、このコンビがすっかり好きになっている…そんな物語でした。
随所に驚きが用意されている、退屈しないエンタメ小説。
独創的な作品が読みたい人に、おすすめです。