作者名:ジャック・カーリィ 文春文庫
刑事カーソンが漂流するボートから救い出した赤ん坊は、謎の勢力に狙われていた。収容先の病院には怪しい男たちによる襲撃が相次いだ。一方で続発する怪事件―銛で腹を刺された男の死体、倒錯プレイの最中に変死した極右の説教師…。すべてをつなぐ衝撃の真相とは?緻密な伏線とあざやかなドンデン返しを仕掛けたシリーズ第五弾。
カーソン・ライダー刑事、不調に見舞われる?
あっちもこっちも心配な、ハラハラの5作目!
悩めるカーソン度:★★★★★
前作「ブラッド・ブラザー」では、
兄ジェレミーとの長年の確執に変化が生じる、大変な事件が起きました。
一応何とか収束して、36歳となった本作では、
疲れがでちゃったのか不調気味のカーソン・ライダー刑事。
最近は凶悪な殺人事件が立て続けに起きて、睡眠不足。
昔関わった事件も、その後悲しい顛末をむかえ、何だかちょっと鬱々…。
そんな時に、気分転換に釣りをしていたら、訳ありの赤ちゃんを救出することになり、
またまた、問題がヤマ済みの事件を担当することにもなり…というのが本作の流れ。
…ふ、不調なのに(泣)
小舟に乗って海をさまよっていた、まったく素性が分からない赤ちゃん。
どこから流されてきたのか調べていたら、
焼け焦げた小屋と、銛を突き刺されて殺された遺体を発見してしまいます。
この子には、一体どんな事情があるのか?
さらには、病院で回復していた赤ちゃんが、おかしな言動の男に襲撃される事態に!
何もできない赤ん坊が、謎の勢力に狙われる理由とは?
そのころ、人種差別主義者の、有名な宣教師が、
倒錯的なプレイの最中に死んでしまいました、というとんでもない事件が発生。
スキャンダラスな…と思っていたら、現場で不審な点が見つかります。
この宣教師のまわりにいる人間たちも、何だか信用できない人ばかり!
捜査を進める、カーソンとハリーのコンビも、危険に巻き込まれ、
過激な白人至上主義の差別グループについても、調べなくてはないない事態に。
カーソンの不調が加速し、ハリーたちも心配する中、
次第に事件の全体像が、浮かび上がっていくのですが…
意外な黒幕の正体と、歪んだ人間の末路にゾクリ。
今回は、恋愛要素が少なく、苦しむカーソンの描写が多いです。
まぁ、5作目にもなればスランプもあるでしょう!
頑張れカーソン!と思いながら読んでいたら、
やっぱり何だかんだで頑張ってました(笑)
恋愛要素は少なくとも、魅力的な可愛いキャラが登場します。
壮大なテーマ度:★★★★
1~4作目は、残虐な殺人を捜査するサイコサスペンス色が強く、
今作も、もちろん不可解で残酷な殺人が連続しますが、
今までの作品とは、少し雰囲気が違うように感じました。
何をやっているのかよく分からない、謎の学者のパートがあり、
最後の最後まで、カーソンの物語と合流せず、
ラストにどーん、とくるのもいい…面白かったです。
作品全体のテーマとしては、今まででいちばん壮大なものだったのではないかと。
個人の負ったトラウマや、家庭の悲劇が作品の中心にあるシリーズですが、
今回はその要素が少なめで(無くはないです。うげっとなる恐ろしい犯人が!)、
クライマックスに明らかになる真実には、はは~それはすごい話!となりました。
素敵なラスト度:★★★
鬱々としたシーンが多めになった今作でしたが、
最後は、ほっこりとする、温かいラストが待っています。
いろいろあったカーソンも、一皮むけて成長。
新しい仲間もできて、次回作も楽しみです!
悲惨な最期を迎える悪人たちと、希望のある未来の話が、
対照的で印象に残る作品でした。
張り巡らされた伏線と、緻密なプロット、アクションは健在!
カーソンを応援したくなる一冊です。