作者名:名梁(なばり)和泉 角川ホラー文庫
30歳過ぎのひきこもりの兄を抱える妹の苦悩の日常と、世界の命運を握る“悪因”を探索する特殊能力者たちの大闘争が見事に融合する、空前のスケールのスペクタクル・ホラー!二階の自室にひきこもる兄に悩む朋子。その頃、元警察官と6人の男女たちは、変死した考古学者の予言を元に“悪因研”を作り調査を続けていた。ある日、メンバーの一人が急死して…。第22回日本ホラー小説大賞優秀賞受賞作。文庫書き下ろし「屋根裏」も併録。
家庭の悩みと、世界の命運を握る戦いが、クロスして…?
予測不能な黙示録的ストーリー!
予想と違う度:★★★★★
物語は、引きこもりの兄を抱え、自身も恵まれた状況とは言えない女性・朋子の視点と、
特殊な能力を持つ「悪因研」のメンバーである男性・掛井の視点で語られます。
兄の今後と、それに影響を受ける自分の将来について悩みながら、
地元のショッピングモールでアルバイトをする朋子。
ある男性といい雰囲気になり、家族問題を何とかしようと一念発起、
両親とも話し合い、NPOの人に依頼をし助けてもらおうとします。
しかし、このころから、彼女はおかしな出来事に遭遇するように…。
一方、訳ありの人間が多い「悪因研」のメンバーたちにも、
不気味な出来事やアクシデントが降りかかり、
ついに、‟敵”に牙をむかれ、戦争状態に陥ってしまう…!
朋子の家族と「悪因研」のメンバーは、全く交わらない存在に思えますが、
能力のせいで生きづらく、引きこもりがちなメンバーたちは、
実はそんなに遠い存在ではないのです。
この2つのパートが、どうシンクロしてくるのかが見どころかと。
紹介文と序盤を読み、
2階に引きこもっている兄が、「悪因研」のメンバーと同じ能力を持ち、
朋子と掛井たちが協力して、世界を救おうとする…
そういう感じの話なのかな?と思ったんですけど、
そう簡単な話ではなかった!
思っていたよりもアクションがあるし、神話的要素があるし、
クライマックスに、今までの認識が違っていたと驚かされるし…。
読後まず思ったのが、何だかいろいろ予想と違ったなぁ、でした。
羨ましくない能力度:★★★★
「悪因研」のメンバーは、ある学者が遺した「悪因」と「悪果」についての予言をもとに、
調査活動をしています。
世界を滅ぼす「悪因」を探し出すのが目的で、
彼らには「悪因」に感染した「悪果」と呼ばれる存在を認識する能力が。
「悪果」は人間ですが、彼らはそれぞれ、
視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚・体調の変化で判別することができます。
視覚で認識できる人には、「悪果」は昆虫みたいな頭部をした人間に見えたりするし、
嗅覚で認識できる人には、硫黄みたいなひどい匂いが感じられます。
どのメンバーも、この能力のせいで、社会生活に支障をきたしており、苦労している様子。
危険は察知できるかもしれないけど、こんな能力は正直いらないですね…。
独特な世界観度:★★★
現代社会の引きこもりという、生々しい問題を扱う一方、
信じられないような予言と、異形と能力者の戦いという要素もあり、
神話のような、悪夢のような、不可思議な世界が関与し、
すべてが絡み合って、独特の世界観で描かれる作品でした。
正直、1回目は一気に読んだせいか、ふ~ん?という感じだったんですけど、
2回目を読んでみたら理解が深まり、世界観も分かってきて、なるほど面白い!
書き下ろしの「屋根裏」も楽しめました。
まさか、こんな壮大な物語だったとは!
何も考えず、とにかく読んでみて、意外な展開を楽しんではいかがでしょう?