作者名:結城 充考 創元SF文庫
“共和国”の緑化政策船団の護衛のため、航空上の脅威となる人狗に対抗する生体兵器として生み出された対狗衞仕の員(エン)。数百年を戦いと孤独のうちに費やした彼女は、情報の涸れ果てた互聯網(ネット)上を彷徨う中で、cyと名乗る人物に呼びかけられる。豊かな知識を所有する彼との対話に喜びを見出す員(エン)。だが、共和国が散布する細菌兵器の脅威が、cyに迫っていた。硬質な叙情に満ちた本格SF。
戦闘のために作り出された生命体に、感情が育ったとき、
あまりにも切ない戦いが始まる…。
スピーディーに展開する、クールな文章ながら熱くなるSF!
映像化してほしい世界観度:★★★★
「大遷移」以降、炭素繊維躯体に覆われた大地。
自国以外の文化を敵対視し、
「緑化計画」というバイオ攻撃を空から行う、共和国が力をもつ未来。
共和国に服従する企業「佐久間種苗」に所有される、
遺伝子工学により生み出された、少女の姿をした兵士「対狗衛仕」。
その一人である主人公・エンが、ある出来事がきっかけで、
ネット上の書類の余白部分を使い、謎の人物・cyと友人になったのが、
この物語の始まりです。
cyが住んでいるエリアが、共和国の緑化政策船団に攻撃されることを知ったエンは、
自分を生み出した存在に逆らい、航空船団の211隻にのぼる戦艦をすべて撃ち落とし、
cyを守り、彼に会いに行くことを決意!
ぜひ、マンガとかCGアニメとかにしてほしい内容!
マンガの「BLAME!」とか好きな人におすすめの、SFアクション小説です。
対狗衛仕の宿敵である怪物・人狗や、
裏切ったエンの最大の敵となる、軍師の人格・道仕など、敵も手強い…。
この道仕、不測の事態に、保存された死体に人格がダウンロードされて活動する、
という、何ともまがまがしい存在。
他にも、地上で独自の生活をする人々や、何となく憎めない趣味人の高等師団長、
貧乏くじを引く冷凍仕と医仕、エンと敵対する2人の対狗衛仕など、
わきを固める登場人物もなかなか魅力的。
中でも好きなのは、エンに懐く可愛いお掃除ロボット!
策略と戦闘に満ちた本編の中で、貴重な癒し成分です。
設定も、キャラクターも、魅力的で一気読みしました。
切ない少女兵器度:★★★★★
エンは作り出された存在で、寿命も能力も、人間からかけ離れているけれど、
感情がないわけではない様子。
人狗が出現したら戦い、それ以外の長い時間は待機。
地上の人は、彼女を鴉女と呼び恐れ、近づきません。
ですが、関わりのあったわずかな人間には愛情を感じ、
バイオ攻撃をやめない共和国に対して、あまり忠誠心を抱けない。
そんな虚無的な日々を送っていた彼女は、
同じく深い孤独を感じさせるcyと友情を育むことに。
この2人の制限された朴訥なやりとりが、切なくて好きです。
すっかりエンに感情移入するようになる序盤以降は、
覚悟を決めた彼女の、冷静かつ的確な戦いっぷりに驚かされます。
SFも面白いんですね度:★★★
中盤以降は、エンと道仕の頭脳戦が繰り広げられ、戦闘シーンが続きますが、
追い込まれる高等師団長や冷凍仕、
健気なお掃除ロボットなどの視点も入るので、
物語がダレることなく進んでいきます。
この作者さんは女刑事クロハのシリーズが有名らしく、
私も1作目で、日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した「プラ・バロック」だけ読みました。
(これも面白かったです。微妙にSF的で、独特の雰囲気が素敵!)
なので、ミステリ中心の作家さんなんですね。
でも、ミステリの中にも、SF要素が含まれていて、
がっつりSF書いても、やはり面白いんだなぁと感激。
ミステリもチェックしていきたいけど、こういうSFも書いていって欲しいです。
はまり込んで一気読み…読後に、悶えました!
SF漫画好き・SF映画好きにも、おすすめです。