作者名:桜庭 一樹 角川文庫
とある事情から逃亡者となった“ぼく”こと巣篭カナは、逃げ込んだダストシュートの中で全裸の美少女・白雪を発見する。黒く大きな銃を持ち、記憶喪失を自称する白雪と、疑いつつも彼女に惹かれるカナ。2人は街を抜け出し、東京・秋葉原を目指すが…直木賞作家のブレイク前夜に書かれた、清冽でファニーな成長小説。幻の未公開エンディング2本を同時収録。
大人にも、女にもなりきれない。
何をしたいのかもわからず、漠然と思う「あまり頑張らずに生きていきたいなぁ。」
そんな少女の現実的な悩みは、非現実的な逃走劇の中で叫ばれる。
リアルな悩みと、奇妙な冒険度:★★★★★
主人公・巣籠カナは、関東の田舎に、母と義父と暮らす中学3年生。
一人称が「ぼく」で、男子とも女子とも喋り、
ゲームが好きな、今時ながらも、どこが無気力感が漂う少女。
とくにはっきりとした目標のない彼女は、漠然とした焦りを抱えた、
どこにでもいる、普通の女の子だったのですが、
学校の裏山に、未確認飛行物体が堕ちたというニュースがあった冬の夜、
突然起きた出来事により、逃亡者となってしまうのです。
混乱状態で街中を走ったカナは、隠れたいと開けたダストシュートの中で、
全裸で凍った状態で、銃を抱えて眠る美少女を発見!
目覚めた彼女は氷を溶かし、怪力で電柱を揺らし、
自分のことも銃のことも何も覚えておらず、‟記憶喪失系”の少女だと言う…。
この摩訶不思議な存在と出会ったカナは、彼女に「白雪」と命名し、
マイペースな白雪に引っ張られて、東京に2人で逃走します。
ときどき視界に入る黒服の男たち、白雪を見て謎の言葉をつぶやく店員、
裏山に落ちたUFOの噂、山の中の精神病院、その日起きていたある事件…。
リアルな悩みを抱えた少女カナは、
とてもリアルとは思えない、謎だらけの少女・白雪と、
時に楽しく、ときに号泣しながら、必死の逃走劇に挑むのでした。
この、リアルな部分と、非現実的な部分の融合が素晴らしい、
異色の青春小説です。
カナの叫びの切実度:★★★★
カナは、義理の父と暮らしており、何となく苦手に思っています。
学校では、特に勉強にも部活にも燃えているわけではなさそうですが、
友達と、比較的まったりとした学校生活を送っており、
恋の悩みも今のところ、なし。
高校どこに行こうとか、あまり義父と関わりたくないな、という悩みがありますが、
切実に追い詰められている、というほどではない様子です。
しかし突如、人生が一変するような出来事に見舞われ、
謎の少女と、おかしな逃走をする羽目になったことで、
彼女が抱えていた、どうしようもない思いが叫ばれ…。
人生の分岐点に立ち迷う、少女たちを描いた青春小説ですが、
彼女の悩み、抱えていた思いに、
ハッとするのは大人もなんじゃないか、と感じました。
本作や、「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」、「赤×ピンク」、
「少女七竈と七人の可愛そうな大人」といった桜庭青春小説は、
大人の心も貫く作品なので、たまに読み返してはハッとしてしまいます。
3つのエンディングに大満足!度:★★★
Vol.1~Vol.7まで語られた後、
EndingⅠ「放浪」・Ⅱ「戦場」・Ⅲ「安全装置」の、
3つのエンディングが用意されている、という変わった構成の作品です。
この3つのエンディングが、全部いい!
全部読むことによって、こんな物語だったんだな、というのがより分かるし、
最も気に入ったエンディングを、
自分で勝手にこれ!と決めちゃえる楽しみが…。
個人的には「戦場」が好きですが、「安全装置」も捨てがたいです。
「放浪」こそが好き!という人も多かろうし…。
まぁ、要するに全部良かった、ということです。
「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」「少女には向かない職業」が好きな人は、ぜひ!
桜庭一樹、最初の一冊にもおすすめです。