作者名:澤村 伊智(いち) 角川ホラー文庫
おかしいのはこの家か、わたしか―夫の転勤に伴う東京生活に馴染めずにいた果歩は、幼馴染の平岩と再会する。家に招かれ、彼の妻や祖母と交流し癒される果歩だが、平岩邸はどこか変だった。さああという謎の音、部屋中に散る砂。しかし平岩は、異常はないと断ずる。一方、平岩邸を監視する1人の男。彼は昔この家に関わったせいで、脳を砂が侵食する感覚に悩まされていた。そんなある日、比嘉琴子という女が彼の元を訪れ…?
比嘉琴子、彼女を変えた少女時代の出来事とは?
この家は、あまりに恐ろしい!
原点に返る度:★★★
短編集を含めて4作目になる本作は、
霊能力者・比嘉琴子の少女時代のエピソードが語られます。
最初は意外にも、気弱でおどおどした少女!
この彼女が、一体何があって、最強の女霊能力者になったのかが明らかになります。
彼女の少女時代を語るのは、小学校の同級生だった男性・五十嵐。
彼は、琴子と一緒に‟ある家”で恐怖体験をし、それ以来「頭の中の砂」に悩まされ、
犬の散歩以外は、家にいる生活を送る羽目になってしまいます。
元凶となる家を気にしながら、当時の怪異や琴子のことを思い返す日々。
そしてある日、霊能力者として経験を積んだ琴子が会いにきて、
彼は再び、恐ろしい家と直接的にかかわることになり、
そこで恐怖の事態を目の当たりにします。
この五十嵐と琴子のパートと交互に語られるのが、若い専業主婦・果歩のパート。
夫の希望で仕事を辞め、神戸から東京に引っ越し暮らしていますが、
慣れない土地での、孤独で時間を持て余す日々に悩みます。
そんな時に偶然、幼馴染の男性・平岩と再会。
平岩邸に招かれるのですが、なぜかこの家、どこも砂まみれ。こわっ。
そして果歩は、どんどん異常事態に遭遇する羽目になるのでした。
2つのパートが混ざり合うとき、意外な事実が明らかになり、
ついに怪異「ししりば」との対決が!
「ぼぎわん」「ずうのめ」と同様、緊迫のクライマックスを迎えます。
家庭の問題度:★★★★
「ぼぎわんが、来る」「ずうのめ人形」でもそうでしたが、
今回も、問題を抱えた家庭が出てきます。
「ぼぎわん」でも書かれていましたが、
やはり、平和にのほほんと暮らしている家庭と比べて、
魔や邪を呼び寄せてしまうということですかね…?
今回の怪異は、‟家”に強く関係するものですから、
他の作品と比べて、舞台の範囲が狭いし、登場人物も少なめかもしれません。
それでも、夫婦のどろどろやら、不気味すぎる家の状態やらで、
この閉鎖的な恐怖の舞台に引きずり込まれます…。
じわじわ怖くなる度:★★★★★
「ししりば」は、不気味で恐ろしい存在です。
過去にも、‟家”に関わっておかしくなった人間がいますし…。
しかし、容赦なく標的を殺す「ぼぎわん」「ずうのめ人形」と比べると、
少し印象が薄いかも?
…と思ってしまったのですが、これは「ししりば」のある性質のせいで、
琴子が、絶体絶命のピンチに陥るほどの、強力な敵なのです!
家の住民や侵入者など、すぐ殺害するのではなく人間をおかしくしてしまう敵、
というのは初めてですが、これはこれで、不気味度がすごい…。
この作品、読んだ後に、関わった人間に与えた影響を考えて、
じわじわ怖くなってきました。
最後の琴子の言葉、ずっしり響きます。
「家」が怖い、「家族」が怖い!
琴子のファンに嬉しい4作目です。