作者名:西澤 保彦 創元推理文庫
殺人現場にぽつんと遺されたぬいぐるみ、いったい何を語る?美形の警部・音無美紀の密かな楽しみは、ぬいぐるみを愛でること。愛するぬいぐるみから優れた洞察力で、手がかりを発見する。そして、男勝りの言動の一方で音無にぞっこんの則竹女史、ミステリおたくの江角や若手の桂島など、個性派刑事が脇を固める、“ぬいぐるみ警部”シリーズ連作集第一弾。ファン待望の文庫化。
変人捜査員と、可愛いぬいぐるみが、大活躍!
しかしライトな作品ではなく、がっつりミステリを楽しめます。
捜査陣、大丈夫か?度:★★★★★
名探偵たる警部・音無美紀(おとなしよしき)と、
わきを固める3人の刑事が、出会った事件を描く連作短編集で、
語り手は、大体3人の刑事のうちの誰か。
主人公の音無警部も相当ですが、この3人も、相当な個性派なので、
ときに暴走気味な、退屈しない文章になっています。
各話の登場人物もなかなかですが、それが霞むくらいに濃い捜査陣メンバー。
まずは主任であり、若く美しく、上品で物静かなエリート、
という非の打ちどころのない青年、音無警部。
今のところほとんど露見していませんが、実は何よりもぬいぐるみに、愛を注ぐ男。
殺害現場でぬいぐるみを見つけた時のリアクションが、
微笑ましくて笑ってしまいます。
クールな美人女刑事・則竹佐智枝は、涼しい顔して妄想たくましく、
渋い、いかにもベテラン刑事の風格の江角は、困ったミステリマニア。
唯一常識的な、若手の桂島刑事は、気苦労が絶えず。
作品自体は、緻密なミステリで、悲劇的な事件が描かれ、
捜査陣がお笑い部門を担当している、そんな感じです。
クオリティの高い西澤ミステリ度:★★★★
初めてぬいぐるみ警部が登場する、「お弁当ぐるぐる」が収録された、
「赤い糸の呻き」は、クオリティの高いミステリ短編集でしたが、
このぬいぐるみ警部のシリーズでも、意外な真相を楽しめます。
1話目の「ウサギの寝床」は、資産家の屋敷で、
金庫の前に若い女性の全裸死体が見つかった事件。
そこには、とても可愛らしいウサギのぬいぐるみが…この子がここにいたのはなぜ?
真相を読んで、なるほど!と驚きつつも、ラストの警部に脱力。
2話目の「サイクル・キッズ・リターン」では、
いきなり女学園の生徒が、通り魔に殺害されてしまいます。
しかしなぜか、彼女のカバンから、去年殺害された有名な野球少年の生徒手帳が…。
つぎつぎ意外な事実が明らかになる、苦い大人のミステリですが、
捜査メンバーに劣らない、強烈なキャラが登場。
3話目の「類似の伝言」では、現実の捜査ではまずお目にかからない、
ダイイングメッセージが発見され、江角刑事が大興奮。
孤独な男が大事にしていた、くまのぬいぐるみに込められた思いとは?
4話目「レイディ・イン・ブラック」は、殺害された画家志望の男性の、
絵のモデルである黒い服の女性が容疑者になる事件。
意外な人物が浮き上がってくる、秀逸なミステリでした。
最後の「誘拐の裏手」は、いきなり誘拐事件が起きて始まりますが、
のちのち、不可解な点が見つかって…。
なぜ犯人は、飲めないウイスキーを7本も買って、瓶にぬいぐるみを抱き着かせたのか?
誘拐事件の戦慄の裏側を描くミステリ。
ぬいぐるみが可愛い度:★★★
どの短編でも、可愛らしいぬいぐるみが登場します。
凄惨な殺人事件の現場にあっても、可愛いのがすごい…。
読み始める時、今回はどこでぬいぐるみが出てくるんだろうな、と思うと、
何だか楽しい(笑)
ぬいぐるみの魅力と、音無警部の溢れまくっている愛が楽しめるシリーズは、
第2弾「回想のぬいぐるみ警部」が出ています。
殺人現場に遺されていた、パンダの特大ぬいぐるみ入りの段ボール箱。被害者が宅配を頼んでいたものだが、伝票に不審な点が。音無美紀警部が、なぜ購入店から直接送らなかったのか、という疑問をもとに捜査を進めると…。仰天の真相が明らかになる「パンダ、拒んだ。」をはじめ、さらに冴える推理と美貌で事件関係者を驚かせる音無警部とその部下たちの活躍を描いた全五編!
こちらも、さらに緻密な短編ミステリが楽しめますし、
(「パンダ、拒んだ。」と「自棄との遭遇」、「離背という名の家畜」がおすすめ)
登場人物たちも、相変わらず生き生きとしています。
「赤い糸の呻き」「ぬいぐるみ警部の帰還」が面白かった人は、ぜひ。
予想外の真相とともに、個性的な刑事たちの活躍と、
可愛いぬいぐるみの魅力を、味わえる短編集です。